
学科長・教授
佐藤 都喜子
Tokiko SATO
専門: 国際協力、女性のエンパワメント、人口学
ワインで有名な山梨県勝沼生まれ。米国ハワイ州にある米国立東西センター人口研究所奨学生として、ハワイ州立大学大学院博士課程修了。博士(Ph.D.) 。国際協力機構(JICA)の仕事で、ケニアに4年半、ヨルダンに12年間近く滞在した経験を含め、20年以上にわたる途上国支援の経験を経て、現職に至る。
詳しい経歴次の時代の創造につながる鍵をつかみ取ってほしい。
本学科を卒業し、バリバリと仕事をしている学生が私にこんなことを言いました。「大学生だった時は、国教の先生方からcritical thinking(批判的思考)と何回も言われても、『あ、そうですか』という感じでしたが、社会に出てその重要性をひしと感じています。学科で学んだことをいま活かしています!」
未来の見通しがつかない、かつ激しい変化の今の世の中にあって、この学生に代表されるように、本学科での学びを活かして次の時代の創造につながる鍵をつかみ取ってもらうことを願っています。
専門分野
国際協力/国際開発とリプロダクティブ・ヘルス、女性のエンパワメント、人口学を専門にしています。
国際協力/国際開発は、社会的に立場が弱く、経済的に困窮している人たちが住む地域のニーズを把握し、そこに住む住民が望む発展を手助けすることをめざします。たとえば、私が出会ったインディオのように、自分たちだけでは貧しい暮らしから抜け出せない人たちがいます。彼らを支援するために、国際協力/国際開発の専門家は、住民が、自分たち自身で地域の発展を持続的に担っていけるような技術的支援を行います。国際協力/国際開発とは、このような持続可能な発展をめざした支援を行えるスキルと知識を学ぶ学問です。
リプロダクティブ・へルスとは、従来の母子保健・家族計画に加えて、生涯にわたる女性の幅広い健康とエンパワメントにも注意を払う分野のことで、国家人口政策の重要な一部です。
たとえば、途上国ではいまだに一人の女性が一生に産む子供数が多く、女性は「産む性」と認識され、子どもの数を夫が決める場合がほとんどです。そこで、夫との話し合いで子どもの数を決めるプロセスが可能となるよう、「女性のエンパワメント」を介した家族計画を推進することが重要となります。具体的には、夫が一方的に子どもの数を決めるのではなく、女性が自信を持ってその意思決定に参画し、しかも家族計画を夫と合意の下で実践できることをめざしています。
学科で教えていること
過去25年にわたり、日本政府が実施する国際協力の現場で働き、最近10年間は海外で活動するNPO/NGOの活動の技術的支援をしている経験を踏まえて、地球規模の課題を考える授業を展開しています。
世界では、様々な問題が起こっています。アフリカ・中東・南アジアにおける人口増加、地方から都市/貧しい国から富んでいる国への国内・国際人口移動、先進国における少子高齢化、途上国人口の高齢化、経済格差の拡がり、災害、環境破壊、多文化共生といった様々な問題が挙げられます。これらの課題に拍車をかけているのが世界のグローバル化です。
授業では、このような国内外で起こっている様々な課題を持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)という枠組みを使って考えることで、社会課題の問題解決を追求する力、すなわち、批判的思考、深い洞察、的確な判断、未来を想像し、創造する力を身に付けることをめざしています。
目的を達成する方法として、教室内での理論的学びを土台に、フィールド(野外)で関係者や住民に聞き取りなどをして、そこから得た情報を科学的に分析することで、現状を把握するといった実践的能力を身に付けることを重視しています。
担当科目
- ガバナンス演習(国際協力・ボランティア)
- ガバナンスオンサイト特別演習(外国籍児童の学習支援)
- 発信力を高める文章講座(元朝日新聞記者との共同授業)
- 2–4年生を対象としたゼミナール
- アカデミック・スキルズ
ゼミのテーマ
私のゼミには、ジェンダー、国際協力、地域開発、多文化共生に関心を持つ学生が集まっています。基礎ゼミ(2年生)では、以下の2点をめざした学習をしています。
- 社会に出た時に直面するジェンダー問題を意識しつつ、自身の10年後の姿を思い描きながら、これからの生き方を考える
- 途上国や、多文化共生の現場で働く上で重要な考え方や視点を身につける
専門ゼミ(3–4年生)では以下の4点を学びます。
- 国際協力/国際開発
- SDGsとグローバル化
- 現場のニーズを把握するための社会調査法
- 行動変容を促す手法
私のゼミでは、教室での理論についての学びや事例研究を用いた批判的思考力の向上の他に、教室を飛び出して飛騨高山でインバウンド観光調査をしたり、瀬戸市で外国籍児童の支援を実施したりと野外での実習も重視しています。その目的は、観察力を磨き、かつ必要な情報を収集し、それを分析する力を身につけることで、理論を実践につなげる応用力を磨くことです。本ゼミではこのように、基礎力と応用力の両方を身につけることにより、現場で役立つ人材を育てています。
基礎ゼミテーマ
ジェンダー、21世紀を生きる心構え、参加型アプローチ
専門ゼミテーマ
開発とグローバル・イシュー、SDGs、グローバリゼーション、社会調査法、行動変容コミュニケーション
過去の学生のゼミ論文
- 日本人に必要な新たなる教育 -先住民族アイヌの住みやすい日本をめざして-
- 韓流ブーム拡大と日韓関係悪化の矛盾 -韓流ブームは韓国に対する国民感情を良好にする影響力があるのか-
ゼミの写真






著書
- 『現代ヨルダン・レポート⁻アラブの女性たちが語る慣習・貧困・難民』(2021年、名古屋外国語大学出版会)
- 『これからの栄養教育論-研究・理論・実践の輪-』(共著・監訳、2015年、第一出版株式会社)
- Asahi中東マガジン連載記事「ヨルダン報告」(2012年、朝日新聞社)
- 『開発とジェンダー:エンパワメントの国際協力』(共著、2004年、国際協力叢書)
おすすめの海外滞在地
エルサレム:イスラム教、ユダヤ教、キリスト教の聖地
エルサレムは、知識だけで物事を考えるのではなく、実体験することも重要であるという「気づき」を与えてくれる町です。
大学に入学してから今日に至るまで、文字通り、世界をめぐる人生を送りました。大学2年から3年間のアメリカ留学を終えて帰国する際、来た道をただ戻るのは面白くないと思い、太平洋ではなく大西洋を渡っての一人旅でゆっくりと日本に帰ることに決めました。単なるぶらぶら旅だと面白くないので、イスラエルでキブツ(集団で農業を営むユダヤ人共同村)体験することを旅の最終目的としました。
まずは、列車で、ベルギー、フランス、イタリアをめぐり、旧ユーゴスラビアからギリシャに行き、そこからは飛行機でイスラエルの首都テルアビブの空港に降り立ちました。1973年7月のことです。まだ、日本赤軍によるテルアビブ空港乱射事件の記憶が生々しい時期でしたが、イスラエル人はみな一人旅の私に親切でした。
キブツで働いているうちに小旅行が可能になり、仲良くなったイギリス人と一緒にイエス・キリストが十字架に架けられたエルサレムを訪問することにしました。エルサレムに到着してみると、「UN」と、ドアに大きな文字が書かれた車が頻繁に行き交っており、物々しい雰囲気が醸し出されていました。第3次中東戦争は既に3年前に終わっていましたが、イスラエル人とパレスチナ人住民の激しい対立は続いており、一触即発の状態を呈していました。このありさまを見て、イスラム教、ユダヤ教、それにキリスト教のメッカ的遺産が存在するエルサレムが、パレスチナ問題という今日的課題の根源をなしていることを肌で感じました。エルサレムは、まさに、実体験の重要性を気づかせてくれる町です。