「悩むこと」を仕事にしよう

大西学准教授のおはなしプロフィール


専門:
政策科学、国際資源管理
担当ゼミ:
持続可能な発展
出身:
京都市

研究・専門分野について教えてください

私は「持続可能な発展(Sustainable Development)」を促す仕組みを研究しています。水や自然、動物をはじめ、「みんなのもの」として共有されている資源を使って、どのように持続的な発展につなげていくのかが焦点になります。同じ資源であっても、管理の方法によって資源の使われ方が異なっており、資源自体に与えるインパクトも違ってくるのです。

例えば、環境に配慮した商品とわかるラベルをつけたりすることがあります。本来、商品はその商品の機能、例としてお魚であれば鮮度などが重視されます。しかし、これに資源量に配慮して獲られたお魚であることを示し、消費者がそれに共感して購入するのであれば、より適切な資源管理の下で獲られたお魚が選ばれるわけで、資源に対してより小さいインパクト、すなわちダメージを与えないようになることが期待できます。

現在、資源管理には政府だけではなく、生産者や消費者も重要な役割を担うようになってきています。そして市場メカニズム(環境税、排出権取引制度、デポジット制等)や社会的ネットワーク(NPO、協同組合等)といった新たな制度や組織も登場してきています。

このようにいろいろな「人や組織(アクター)」が関わり、さまざまな手段や政策を上手に組み合わせて、持続可能な発展につながるような社会を作り上げる提案ができればと思っています。

研究分野に興味を持ったきっかけや理由はなんですか?

私は、元々、何でも悩んでしまう性格であったので、「悩むこと」を仕事にしよう、とぼんやり思っていました。その中でも持続可能な発展に特に興味を持ったのは、米本昌平さんの『地球環境問題とは何か』(岩波新書)を読んだことが大きなきっかけでした。経済成長と環境保全の両立をどうすればよいのか。本書を通じて「経済成長か環境保全か」ではなくその両方を満たす道を、狭いかもしれないけど追求していきたいという、「自分なりの軸」が生まれました。

水産資源管理に取り組むようになったのは、大学院時代の恩師のお一人である柴田弘文先生から示唆を受けたためです。最初は思い入れもあまりありませんでしたが、気づいたら面白くてのめり込んでいました。「みんなのもの」を、どうやって持続的に利用していくのか、その典型例の一つが水産資源であり、市場メカニズムやコミュニティベースの管理といった様々な仕組みが見られ、とても刺激的なテーマです。

他にもいろいろな分野で、多くの先生方から「みんなのもの」について教わる機会があり、その都度影響を受けてここまで導かれてきた感じです。そして、最終的に「コモンズ=みんなのもの」をどうやって「持続可能な発展」になるような仕組み(=ガバナンス)を作り上げていくのか、という所にたどり着きました。でも、これからもいろいろな人と関わっていく中で、変わっていくかもしれません。

研究分野に関連するおすすめの作品や書籍を教えてください

まず紹介したいのは、中谷宇吉郎氏による『科学の方法』(岩波新書、1958年)です。この本の中で、「科学」とは、自然のほんとうの姿をみつけていくのではなく、人が科学の方法を用いて自然を解釈していくことである、というようなことが述べられています。これは社会でも同様で、何か1つの真実があるのではなく、いろいろな視点から解釈でき、そしていろいろな解釈がある中でよりベターなものは何か、ということを意識できるきっかけになりました。

もう1冊紹介したいのが、筒井淳也氏による『社会を知るためには』(ちくまプリマー新書、2020年)です。本書では、特に「意図せざる結果が起きてしまう」ことを強調しています。世の中は環境問題に限らず、多くの問題であふれていますが、多くの場合それは「意図せざるもの」です。本来の意図とは離れて、ある問題が生じたりします。そのメカニズムについてわかりやすく解説されており、単純に「問題→解決」にはならない社会の複雑さが示されています。

国際教養学科で教えている授業についてお聞かせください

ガバナンス原論、ガバナンス演習、持続可能な発展をテーマとする専門ゼミナールなどを担当しています。いずれも、いろいろな人や組織(アクター)が、「みんなのもの」である資源を使って、「持続可能な発展」につながる「仕組み」について教えています。また、どの授業においても社会の物事を決める仕組みである民主主義の制度や市場メカニズム、国際制度等について扱っています。

政治や経済、国際的な枠組み、と言うと、とてもハードルが高く感じられると思います。しかし教室での座学だけではなく、独自に作った選挙ゲームなどの参加型ワークショップをたくさん用意しています。頭で理解しつつ、実践的な体験も通じて、授業を展開しています。

国際教養学科の学生の特徴を教えてください

国際教養学科(国教)の学生は、全国津々浦々から集まり、いろいろなバックグラウンドを持つ学生が揃います。全般的には、明るく元気で、学業にも課外活動にも粘り強く取り組む学生が多いように感じます。「国教は授業内容が厳しい」と言われたりもするようですが、授業に意欲を持って出てきてくれるたくさんの学生がいるのは、大変ありがたいです。

ゼミでは、個々の学生が選ぶ自身のテーマが「持続可能な発展(Sustainable Development)」に関連しているならば何でも良い、としていて、集まるゼミ生の興味・関心も本当に多彩です。そのため「持続可能な発展」という芯の部分を強調しています。その芯の部分から、それぞれの学生がおのおの興味・関心に基づき、様々な研究課題を追求していき、各領域で活動する、というのがゼミのイメージです。個別に相談して、学生一人ひとりが自分の関心事に取り組み、他のゼミ生との相対的な位置を自ら見いだせるよう気をつけています。ぜんぜん違うテーマでも同じ「持続可能な発展」について、題材や視点が異なりつつもつながっていて、同じ土俵でコミュニケーションできることに気づいてもらいます。

学生の卒論テーマやゼミでの研究などで印象に残っているものはありますか?

少し例を挙げると、「ペットの生体販売問題」「災害時におけるペット飼育の課題」「ソ連時代のロシア正教会抑制政策とロシア・ナショナリズムへの影響」「平成仮面ライダーの変遷と玩具販売戦略への影響」などでしょうか。どれも、私の方が知らないこと(笑)なんですが、私自身がこれも「持続可能な発展」になる、という気づきをもらいます。一緒に勉強していって新たな発見に出会えています。

国際教養学科への入学を検討している方々にメッセージを!

気がつかない「当たり前」に気づいて世界と自分を変えていきましょう。

情報化やAIによる自動翻訳の進展で、英語を学ばなくても世界の様子を見たり聞いたり、場合によっては簡単なコミュニケーションまでできるようになってきました。しかし、言葉の背景にある文化や制度を知らなければ、結局外国語を日本語にただ直しただけで、伝えたいことがなかなか伝わりません。

たとえば、英語の”tuna”は、日本語だと「まぐろ・かつお類」全般を指します。ですから、シーチキンの”tuna”も、寿司の大トロの”(fatty) tuna”も同じ言葉になってしまいます。大トロを説明にするには”(fatty) tuna”だけでは足りないのです。”tuna”の意味を「まぐろ」と知っていても、それを取り巻く文脈、すなわち文化や制度を知っていなければ、適切なコミュニケーションは難しいのです。

多くの日本人にとって「当たり前」の言葉でも、海外ではそれに該当する言葉がない場合があります。逆に、海外の「当たり前」の言葉を日本語にするのにとても苦心することもあります。そういった一つ一つの「当たり前」を解きほぐし、自分の「軸」となる価値観を常に刷新し、世界と自分の新しい関係を構築していける場が、国際教養学科だと思います。