スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 現代英語学科 佐々木菜緒

私が感じた情報格差 【第7稿】

今年50歳になる私の父は、いわゆる「ガラケー」を未だに使っている。父が携帯で使うのは、電話とメールくらいで仕事以外のために携帯を使うことはほとんどない。そんな父に「家族で連絡とるのに便利だから」とLINEを勧めたことがある。しかし、「設定の仕方がわからない」それが父の最初の一言だった。

 

父のLINEの設定は、私が代わりにやった。しかしその後も「メッセージの送り方がわからない」「グループってなんだ」など、私が「簡単」だと思っていたことが一向にできない。私は父とともに一日中LINEと格闘した。それでも結局、父はLINEを使って連絡を取ることを断念してしまった。

 

父でさえ戸惑っている連絡機能の進化は、祖父ともなるとより深刻な問題である。すでに70代後半である祖父は緊急時の連絡用にと、機能が簡略化されたいわゆる「らくらくホン」を使っている。このケータイもまた「ガラケー」だ。年齢の割には電話とメール機能を使いこなしている、器用な祖父である。

 

「携帯を変えたいんだけど、よくわからんのだわ、ついてきてくれんかな」そんな祖父の言葉から、私は祖父とともに携帯会社へ行くことにした。店内に入ると最新のiPhoneやアンドロイド端末などがずらりと並べらており、一組の家族連れがああでもないこうでもないと端末を手に取っていた。「こんにちは。よかったら手にとって見てください」と、優しい声で微笑む若い女性の店員さんに勧められて、私たちは携帯電話を見始めたのだった。

 

「こちらのスマートフォンなんてどうですか」と、ニッコリと微笑みながら店員さんがスマホを勧めて来た。「初心者の方でも使いやすいデザインになってますよ」と勧められてスマホを手に取った祖父は、そのまま硬直してしまった。「これはどうやって電源を入れるんだ」

 

その後も店員さんの説明を受けながら、祖父は懸命にスマホの使い方を練習した。「インターネットは何に使うのものなのかなあ」と祖父が聞くと、店員さんは「調べ物をする時やアプリを使う時に便利ですよ」と答えた。祖父は丁寧に説明をしてくれる店員さんに多くの質問をした。「調べ物ってどうやるんかなあ」「アプリってなんかよくわからんなあ」

 

これまで、スマホはおろかインターネットさえ使用する機会をあまり持たなかった祖父。道は紙地図で調べて、レストランは広告や友人の評判で決めてきた。結局、電話と写真機能は覚えることができたものの、「インターネット」というものの使い方は最後までよく理解できず、スマホでなくガラケーに買い替えたのだった。

 

私はといえば、絶えずLINEの通知を確認して暇な時間を見つけてはインターネットサーフィンをしている。「いい加減、携帯いじるのやめなさい」という母の言葉が私に対して使うお決まりのフレーズだ。「すぐ終わるから」と苛立った声で答えるが、実際はその後も変わらず携帯と向かい合っている。携帯が常に自分の近くにないと不安で仕方がない。

 

父は、未だにLINEを使いこなせない。祖父は、インターネットというものの使い方をしっかりと把握できていない。父と祖父は、家族のLINEグループに入っていない。だからといって、彼らがそれを不便と感じるのかは私にはわからない。しかしながら、LINEとインターネットを常に使う私には、彼らと私の間に確かに存在する情報格差が、彼らから簡単に情報を得る機会を奪ってしまっているように思えた。

【第1稿】

「もしもし?今どこにいるの?」私は、苛立った低い声で彼女に尋ねた。「今、ちょうど地下鉄乗ろうとしてたとこ。どうした?」「は?授業は?」その呑気な口ぶりに私は思わず強い口調で言ってしまった。「え、だって今日は休講でしょ?」

 

午後一番に始まる英語のライティングの授業。静まりかえった教室の中で私だけが先生を待っていた。他の5人の生徒は来ていない。15人分しか椅子のないこの小さな教室の中で、効きすぎるエアコンの冷風に鳥肌が立つ。昼休み後だからか、教室には微かにカレーの香りが漂っている。私は最も後ろ端の机がガタガタと揺れる席に座っていた。

 

「誰も来ないし。」授業開始の鐘を聞いて5分ほど経ったときから妙にソワソワした。時間が経つのが遅い。「もう少し待とう。」と言い聞かせる。時折チカチカと点滅する蛍光灯と、通知のこないLINEを交互に見ながら、廊下から聞こえてくるやけに大きい足音を聞いた。隣の部屋から熱弁する先生の声がかすかに聞こえる。鐘がなってから10分経ったのを確認すると、急いでLINEを開き、同じ授業を受けるはずの女友達に電話をかけた。

 

「今日授業ないよ。」彼女は何でもないという感じで「まさか、教室いるとか?」と茶化すように言った。大好きなはずの彼女の楽天さが、今はただただ焦燥感を掻き立てる。「え、私、そんなこと聞いてないし。」私は眉間に眉を寄せた。「ツイッターに出てたよ~。あ、そっか、ツイッターやってなかったんだっけ?あ、ごめん、電車来たから切るね!」

 

「ツイッターとかほんと意味わからん。」一方的に切られた電話に深い溜め息をつく。室温が先程より低く感じた。私はとりあえず大学のホームページを確認する。毎晩確認しているホームページには、昨夜はなかったはずの休講のお知らせが掲載されていた。「まじかよ。」私は携帯を投げるようにカバンにしまいこんで、叩くように電気を消し、早足であのカレー臭い部屋をあとにした。

 

授業の休講に気がつかなかったのは、当日に大学のホームページを確認しなかった私の責任かもしれない。もし昼休みに確認していれば、教室で待ちぼうけすることも、友達にあたることもなかったかもしれない。突然の休講に、ツイッターをやっていなかった私だけが素早く情報を受け取ることができなかった。ツイッターをやる人とやらない人。情報を受け取れる人と受け取れない人。些細だと思っていた差が、ここまで情報の共有に影響を及ぼすことに酷く驚かされた。

【第1稿への講評】

 情報格差の体験を書こうとしているのはよいと思います。具体的に書こうとしているのも5月の授業の成果ですね。ただし、体験は大学のHPに急に出ていた休校の通知を見ていなかったために、自分だけ教室に来て、無駄に待つことになったという単純な話なので、それをもとに、話を膨らませているので、全体が冗漫になっています。冗漫ということは、記述に無駄が多いということです。
 「情報格差」などテーマを踏まえて書く場合には、あなたの体験を通して、テーマのとらえ方が変化したり、発展したり、より深い意味が見えてきたりしなければなりません。このより深い意味が見えてくる、というのはどういう意味かは、文章をつくりながら、考えてみなさい。
 この一つの体験だけでは単純な話なので、もう一つ、情報格差につながる体験やエピソードを出して、話に厚みを持たせることは必要でしょう。

※この受講生も前期の講座の受講生で、「格差体験」という課題である。自身の体験を具体的に文章化するということは学んだことが生かされているが、それを格差というテーマに結び付けることは課題だった。修正を繰り返すうちに、大学での体験はなくなり、家族での父親と祖母の携帯をめぐるエピソードが入り、世代間の情報格差という形で肉付けされた。このように、社会的なテーマを自身の体験と結びつけて文章化することは簡単ではないが、説明や理屈をこね回すのではなく、体験やエピソードを材料として使って文章をつくる方法を修得したことは、重要だと考える。

 発信力を高める文章講座


1.情報発信者を養成する文章講座の取り組み(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.言葉のないコミュニケーションから学んだこと
 2-2.諦めないこと
 2-3.「伝える」コミュニケーション
 2-4.オーストラリアでの失敗から得た教訓
 2-5.弟の職業体験から考える賃金格差
 2-6.私が感じた情報格差
 2-7.楽しい世界の造り方
 2-8.「二度の受験を乗り越えて」
 2-9.傷ついて知ったこと
 2-10.旅から学んだこと
 2-11.ホストマザーとのコミュニケーション
 2-12.セックスワーカーの女性たち
 2-13.取材を通して学んだこと
 2-14.日本とインドネシアの架け橋
 2-15.「コミュニケーションが与えるもの」
 2-16.百崎先生との大学受験
 2-17.国境を越えるコスプレ文化との出会い
3.参加者の声
4.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)