スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 中川琴音

■「伝える」コミュニケーション 【第10稿】

高校2年生の冬休み、イギリスのホームステイ先でホストファミリーの夫婦喧嘩に遭遇した。日曜日のお昼過ぎ、私が2階の自室で休んでいると、階下から2人の怒鳴り声が聞こえてきた。すると、突然、私の部屋のドアが開き、その家の末っ子のポピーが入ってきた。「ママとパパが喧嘩するたび、私はどうしたらいいか分からないの」とポピーが訴えた。

 

ポピーは10歳の女の子で、明るく無邪気な性格だ。笑う度に歯の正器具が覗くチャーミングな笑顔が私は好きだった。しかし、その日、ポピーからいつもの笑顔は消え、両親の声に耳を澄ませている。私が彼女にかける言葉を探しあぐねていると、ポピーの方から独り言のように話し始めた。「今のパパは私の本当のパパじゃないの。本当のパパはママと別れて、ママは今のパパと再婚したの。私はママが好きだから、ママに幸せになってほしいだけなのに……」 ポピーの目に涙が浮かんだ。

 

ポピーの話を聞いて、私と同じだ、と思った。私もかつて両親の不仲に悩んでいた。小学生の頃は、両親が毎晩のようにつかみ合いの喧嘩をしていた。「ごめんなさい、私が悪いの、ごめんなさい」私は謝罪の言葉を泣き叫んでいた。喧嘩の原因が私にあったのではない。子供の私が泣けば二人は我に返ってくれるかもしれないと思った。しかし、私の両親は夫婦喧嘩が絶えず、1年前に離婚した。

 

ポピーが私に「コトネはパパとママが喧嘩した時、どうしてたの?」と聞いた。「ずっと、謝ってたよ、泣きながら」と答えた。「どうしてコトネが謝るの?」と、ポピーが聞き、私は「分かんない!でも、そうするしかなかったの」と当時の気持ちを本音で話した。私も両親の喧嘩で辛い同じ経験をしたと伝えることで、少しでも彼女の気持ちに寄り添いたかった。

 

この時、ポピーと話していると、驚くほどスラスラと言葉がでてきた。簡単な英語ばかりだったが、私は夢中で話した。すると、ポピーが突然「コトネの英語、とっても上手!」と目を見開いた。彼女は興奮しながら私の英語を褒めてくれた。こんなことは初めてだった。私は急に話題が変わったことにあっけに取られていると、階下からの夫婦喧嘩の声も聞こえなくなり、彼女も気が済んだのか、部屋を出て行った。

 

なぜ私のつたない英語が突然、通じたのだろうか。それは、私の「伝えたい」という思いが彼女に通じたからだと思う。適切な単語や正しい文法に気を取られず、とにかくポピーに自分の思いを伝えたいと考え夢中で話した。これは私にとって、コミュニケーションとは何か、気持ちが通じるとは何かと言うことを考えさせられるきっかけになった。母語での会話の中で、言葉は理解できても、相手や自分の心情はどこまで通じているだろうか。「伝えたい」という熱意を持って、相手と向き合うことがコミュニケーションの第一歩だと思う。

【第1稿】

高校2年生の冬休み、イギリスで2週間の語学研修に参加した。私にとって初めての海外で、毎日様々なイベントが催された。しかし、最も印象に残ったのは日常の中の些細な1コマである。それはホームステイ先の女の子とのおしゃべりだ。ここで私は言語の壁を越えることを体感した。

 

ホストファミリーは父母と娘二人の4人家族で、留学生の受け入れ経験も豊富だった。次女のポピーは10歳で、笑顔の可愛い活発な女の子だ。私たちはたまにテレビゲームやテニスをして遊んだが、私の英語があまりにもおぼつかないため、会話によって親交を深めることはなかった。

 

ある日、私が二階の自室で休んでいると、階下から夫婦の怒鳴り声が聞こえてきた。いつもは仲の良い温厚な2人なので驚いたが、そんな日もあるだろうと、そっとしておくことにした。しばらくすると、ポピーが私の部屋にやってきた。そして、私のベッドに潜り込み、目に涙を浮かべたままドアの向こうを見つめていた。私はベッドの下の床に座り、なんと声をかけるべきか探しあぐねていた。

 

すると、ポピーの方から、両親が言い争う度、自分はどうすればよいのかが分からなくなると悩みを打ち明けてくれた。その言葉に私の思い出が重なった。私も幼い頃から両親の夫婦喧嘩に悩んでいたことを伝えた。辞書を使いながらのたどたどしい説明だったが、彼女は真剣に私の話を聞いてくれた。

 

「パパとママが喧嘩した時、あなたはどうしていたの」と聞かれ、「ひたすら謝っていた」と答えた。続けて「どうしてあなたが謝るの」という質問には、「I don’t know, but I only say I’m sorry.(分からないけれど、ごめんなさいしか言えなかった)」と反射的に話していた。すると、ポピーは目を見開き「Your English is very well!」と褒めてくれた。突然の話題の変換に驚いていると、次第に怒鳴り声も聞こえなくなり、ポピーは部屋を出ていった。

 

おそらく、会話が盛り上がる中で私が感情移入していき、それをポピーも感じたのだろう。それまでの学校の授業では、定型文を英語の習得のために話しているという印象で、上手く話さなければということばかり気にしていた。しかし、伝えたい思いがあるときは、人は夢中で話す。必死な思いは相手にも通じる。これは私の話す言語ではなく、私の気持ちが伝わった瞬間だった。

【第1稿への講評】

 あなたの文章は書きたいエピソードがはっきりしているのはよいと思います。
 第1の問題は、第1段落が、全く読者を引き込まないことです。<高校2年生の冬休み、イギリスで2週間の語学研修に参加した。私にとって初めての海外で、毎日様々なイベントが催された。しかし、最も印象に残ったのは日常の中の些細な1コマである。それはホームステイ先の女の子とのおしゃべりだ。ここで私は言語の壁を越えることを体感した。>という第1段落だけ読んで、次を読みたいと思いますか。
 さらに第2段落も説明です。それも<私たちはたまにテレビゲームやテニスをして遊んだが、私の英語があまりにもおぼつかないため、会話によって親交を深めることはなかった。>と、終わります。
 ここで半数の読者はこの作文を読むのをやめるでしょう。この文章講座は就職試験のためにしているのではありませんが、就職で作文や論文があれば、評価担当者は何十、時には100以上の作文を読むことになるでしょう。この作文は、この2段落を読んで終わりです。
 肝心のエピソードは第3段落の「ある日」から始まりますが、それまでに260字を費やしています。
 第1段落で全体をまとめたり、何か説明したりしたら台無しです。どのように書いたら、読者を話に引き込むことができるか考えましょう。

 ※この作文には最初から文章化したい体験は明確である。ただし、ホームステイ先の両親の夫婦喧嘩に悲しむホームステイ先の娘を相手に、自分の体験を含めて必死で話すうちに拙い英語が伝わっていて驚いたという体験は、それを説明しても唐突感があり、伝わらない。修正を重ねることで、筆者が娘の悲しみに寄り添う場面をしっかり文章化して、筆者と娘の意思が通じる体験を描くことで、気付いたら英語が伝わっていたという発見は唐突ではなくなっている。

 発信力を高める文章講座


1.情報発信者を養成する文章講座の取り組み(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.言葉のないコミュニケーションから学んだこと
 2-2.諦めないこと
 2-3.「伝える」コミュニケーション
 2-4.オーストラリアでの失敗から得た教訓
 2-5.弟の職業体験から考える賃金格差
 2-6.私が感じた情報格差
 2-7.楽しい世界の造り方
 2-8.「二度の受験を乗り越えて」
 2-9.傷ついて知ったこと
 2-10.旅から学んだこと
 2-11.ホストマザーとのコミュニケーション
 2-12.セックスワーカーの女性たち
 2-13.取材を通して学んだこと
 2-14.日本とインドネシアの架け橋
 2-15.「コミュニケーションが与えるもの」
 2-16.百崎先生との大学受験
 2-17.国境を越えるコスプレ文化との出会い
3.参加者の声
4.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)