スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 上ミ地香菜子

国境を越えるコスプレ文化との出会い 【第9稿】

 「コスプレ、エブリウェアー!(どこにでも、コスプレを!)」 大勢の人の掛け声とともに、熱い真夏の名古屋の祭典「世界コスプレサミット」が開幕した。5日間にわたって明治村やラグーナ、オアシス21といった愛知県の観光名所が、世界36か国から集まった約30万人のコスプレイヤーたちで埋め尽くされる。2017年8月、私はそんな“世界コスプレサミット”を大学のメディアゼミで取材することとなった。
ゼミではマスメディアで実際に使われる映像効果などを学んでいる。私たち8人の女子のグループは三年生上がってすぐ、卒業制作として全員で映像作品を残すことを決めた。各自ネタ探しを進め、全員でプレゼンを行った結果、私が見つけてきた世界コスプレサミットへ取材することが決まった。
私は撮影のプランを練るうえで、作品のテーマを一番に考えた。「作品内の企画の全てに一貫性を持たせることが重要だ」とゼミの担当教員から耳にタコができるほど言われていた。あいまいなテーマではなく、企画内容にきちんと合ったテーマを必要としていた。そこで私は私達の所属する国際教養学科のスローガンである”ビヨンド ザ ボーダー”という言葉を思いつき、このイベントを選んでいた。
“ビヨンド ザ ボーダー”とは、日本語で「国境を越える」という意味がある。私はこのテーマにした理由をみんなに話した。「世界コスプレサミットは、コスプレを通して世界中の人が言葉や慣習の違いなど関係なくみんなが仲良くなれるイベントだという点と共通しているところがあると思って作品のテーマに選んだんだけどどうかな」
するとメンバーの一人が「それって私達にもこのイベントにもピッタリじゃん!すごい!」と言ってくれた。他のみんなもと賛同してくれた。会話が弾んでいくみんなの様子を見て、私はとても安心し、一層この言葉が気に入った。それから細かい撮影内容を決め無事企画書を提出し、世界コスプレサミットの運営会社に承諾をもらうことができた。
撮影当日を迎えた。開会式が行われたラグーナテンボスには海外から集まった60人余りの外国人コスプレイヤーがそのマンガのキャラクターに扮して写真撮影を楽しんでいた。カメラをもって彼らに駆け寄り、「ハロー!こっちのカメラを見て―!」とジャスチャーを交えていうと彼らは思い思いにポーズを決めたり「イェーイ!」といってピースサインをしたりしてくれた。
撮影三日目、犬山市・明治村での撮影の日、場内をぐるぐる歩いていると、世界コスプレサミットの代表・小栗徳丸さんを偶然見かけた。30代後半の男性で、見た目はとても若い、かっこいいおじさまというような感じだ。彼は15年前テレビ愛知に勤めていたころ番組の一環としてこのサミットを立ち上げた。番組終了後、2012年に独立し株式会社WCS(ワールド コスプレサミット)を立ち上げ、このサミットを存続してきた。
そんな彼が、私達の目の前でさわやかな笑顔で海外のコスプレイヤーと話をしていた。まさかお会いできると思っておらず突然のことでその場にいた4人のゼミ生は「今いいかな?」「今忙しいんじゃない?」「いや、でも今いかないとどっか行っちゃうよね」とそわそわしていた。
私は小栗さんに震え声で「インタビューさせていただきたいです!」と声をかけた。すると「もちろんいいですよ!どこでお話しましょう?今から講堂へいくのでそこで良いですか?」と快く承諾してくだった上に場所まで提案してくれた。「はい!」自然と四人の声がそろった気がした。嬉しくてみんなの方をみると、みんなもにこにこしてどこか緊張したような様子でいた。
講堂につくと正座をして小栗さんへのインタビューを始めた。私はカメラを両手に持ち、額から汗が流れていくのを感じながら話を聞いた。その中で一番記憶に残っている言葉がある。それは「世界コスプレサミットを行う目的はなんですか」という質問についてだった。「コスプレを通して世界平和を実現させたい」というのが彼の答えだった。
「世界コスプレサミットへの参加国がどんどん増えている。普段は戦争をしている国同士に人たちが、ここにくるとただ共通の趣味”コスプレ”を通して宗教や国の問題を越えて仲良く話している。肩を並べて歌だって歌う。それを見ていると世界平和って案外簡単なんじゃないかなって思うんだ。日本のそんな平和な文化がもっと広まってくれるといいなあ」 
私はとても驚いた。サミットの中心にあるのは、私たちが今まで大切にしてきた「ビヨンド ザ ボーダー」なのだ!と確信したからだ。宗教や人種の違いによって、普段は対立している人々が、このサミットでは”コスプレ”を通して”交わらない当たり前”を越えて”同じ趣味を持ったただの友達”に変化するのだ。私たちはその言葉にとても共感して、感動して大きく首を縦に振った。

【第1稿】

今年の5月頃、私はゼミの卒業制作として残す予定の映像作品の撮影対象を探していた。先生から与えられた「①なぜ今撮らなければならないのか。」「②なぜ私たち(外大生)が撮るのか。」「③私たちにしか撮れない何かがあるか。」という3つの条件をもってリサーチを始め、私はコスプレサミットを見つけた。
そしてコンペを終え、私のプレゼンした世界コスプレサミットが今回の対象となった。
撮影をするに当たって、主催者側に出す企画書をだす必要があった。企画書は出す相手を納得させるような内容でないといけない、とあって私たちは今までにないぐらい頭を働かせて悩んで話し合いをした。3つの条件を持って文を構成するということにとても苦戦した。朝は始発で集合し、終電で帰るという生活が1週間つづいた。精神的にも身体的にも一番大変な期間だった。しかしその分、得るものは本当にたくさんあった。
失敗から学んだ事もたくさんあった。ゼミ内のモチベーションの違いが生まれたり、集団だからこそ作業が引き締らなかったりすることもあった。そこで1人1人がやる仕事を分担することにしたら、それぞれに責任が芽生えてみんなが一つになっていったように感じた。
最初の頃はどこか薄っぺらだった話し合いも、徐々にみんなの意見が衝突する場面がでてきて、中身が濃くなっていった。ゼミ生8人は本当にそれぞれの色が違って、私1人では思いつかなかったようなひらめきがたくさんあった。撮影期間中も企画書を練っていたあの時間がとても役に立った。
今回の撮影は、コスプレサミットに参加するすべての人が対象だった。そのため撮影のほとんどの部分が参加する人へのインタビューだった。撮影が始まる前はすごく不安だったが、いざインタビュー取材をしてみると、不思議なことに質問が次々とでてきた。失敗もたくさんしたけれど、メンバーが多い分改善も早く、どんどん質のいい質問が出来るようになっていき、充実した撮影期間であった。
今回の撮影でたくさんのことを学んだが、一番の収穫は「共感は強い」ということである。誰かを納得させるには、その人のことをよく知り知識をつけること。そしてその知識を元に相手と自分の中で共感を生むことで、ぐっと距離を縮めることができると分かった。コスプレサミットについてリサーチする、あの期間があったからこそサミットと私たちのなかで共感を見つけ、今回の撮影が成功したのではないかと感じた。

【第1稿への講評】

あなたが卒業制作として、世界コスプレサミットを取材し、撮影したことは分かりますが、取材や撮影について説明しているだけで、あなたが取材したり、撮影したりした体験の中身は全く描かれていないので、あなたの体験は文章として伝わってきません。
 企画書づくりの苦労を書いている前半部分も、大変だったと書いているだけで、企画書をめぐる議論の中身も、企画書の中身も、あなたたちが何に苦労したかも、何も中身が描かれていないので、何も伝わってきません。あなたの頭の中には、議論したことや、先生にダメ出しされた場面などが場面として残っているでしょうが、それをあなたの体験として出さないとなりません。
 自分の体験を書く文章では、文章の中には何も書かれていないのに、頭の中にある自分の体験で補って読んでしまうために、それが何も伝えていないのに<大変だ><苦労した>と書いていれば、何か伝えたつもりになることが多いのですが、実は何も伝わっていません。
<撮影のほとんどの部分が参加する人へのインタビューだった。撮影が始まる前はすごく不安だったが、いざインタビュー取材をしてみると、不思議なことに質問が次々とでてきた。> この下りも、中身は何も出ていません。いくつもインタビューしたならば、あなたが不安を抱えながら最初に行ったインタビューの場面や、あなたの一番あなたの記憶に残ったインタビューのやりとりを文章で再現するしかないでしょう。あなたの文章は、あなたの「記憶に残った体験」というドキュメンタリービデオで、実際の現場でのスタッフの熱い議論の場面やインタビュー場面がなくて、そのような中身を補足するナレーションの説明だけをつなげたようなものです。中身がないというのはそういうことです。
 要するに、根本的にとりかえが必要です。

※「記憶に残った体験」を書くという課題なのに、概説的な説明だけで、体験の中身が記述されていないという点は、これまで繰り返し指摘したことである。このような個人の体験を他者に伝える文章を書くことができないのは、何も学生たちだけの問題ではなく、ほとんど日本人全体の文章の問題ではないかと思う。自分が体験したことが、他者に見えるように文章化するには、自分独自の体験を文章として伝えようとする意思が必要であり、意識を転換する必要がある。

 発信力を高める文章講座


1.情報発信者を養成する文章講座の取り組み(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.言葉のないコミュニケーションから学んだこと
 2-2.諦めないこと
 2-3.「伝える」コミュニケーション
 2-4.オーストラリアでの失敗から得た教訓
 2-5.弟の職業体験から考える賃金格差
 2-6.私が感じた情報格差
 2-7.楽しい世界の造り方
 2-8.「二度の受験を乗り越えて」
 2-9.傷ついて知ったこと
 2-10.旅から学んだこと
 2-11.ホストマザーとのコミュニケーション
 2-12.セックスワーカーの女性たち
 2-13.取材を通して学んだこと
 2-14.日本とインドネシアの架け橋
 2-15.「コミュニケーションが与えるもの」
 2-16.百崎先生との大学受験
 2-17.国境を越えるコスプレ文化との出会い
3.参加者の声
4.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)