スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 河原崎 彩

セックスワーカーの女性たち 【第11稿】

 「ねえ、お兄さん、ちょっと寄っていかない?」「一緒に遊ばない?」と、肌を大胆に露出し、メイクもばっちりした女性たちが、通りを行きかう男性に声をかける。ここは、タイの首都バンコクの風俗街だ。私はトランスジェンダーや格差問題に関する研修プログラムでタイを訪れ、参加者10人で現地のタイ人学生の通訳と一緒に風俗街を訪れ、セックスワーカーの実態を見た。
風俗街は、バンコクから車で二時間ほど行ったところにある。日中は主要道路として使われている道が、夜は風俗街に変わり、数百人もの観光客が行き交う。そこは一見、観光客向けに土産物を販売する小さな出店が並んでいる、普通のマーケットであった。道の両側に並んでいる土産物の出店をのぞきながら、通りを進んでいく。すると、20メートルほど先の店の前で、15人くらいの女性達が固まって座っているのが見えた。
「彼女達がセックスワーカー?」私は同行してくれた現地の学生に聞いた。「そうだよ、ここに座っている女の人全員セックスワーカーだよ」。その日の午前中、セックスワーカーを支援している団体で、彼女達が直面している問題について話を聞いた。農村地域から稼ぎを求めて上京した女性たちが多いという。しかし、セックスワーカーは労働者としての権利が認められていないため、雇用保険や健康保険などに入ることができない。そのため、彼女たちがHIVなどの病気にかかったとしても保険金がおりず、自己負担で治療を受けるか、あるいは病院に行けずに病状が悪化してしまうという問題に直面している。
彼女たちは、まるで獲物を捕まえるかのように、通行人を一人一人品定めしていた。釣れる男性と釣れない男性を瞬時に区別しているのだろうか。その視線が恐ろしくなり、地面を見つめながら彼女達の前を通り過ぎようとした、その時。座っていた一人の女性がいきなり立ち上がり、「一緒に遊ばない?」と声をかけてきた。
自分に対して声をかけてきたのかと思い、驚き、戸惑った。しかし、声をかけられたのは私ではなかった。彼女の視線は近くを歩いていた中年の男性へ向けられている。さっきまで鋭かった目つきが、子犬のように優しいものに変わっていた。声をかけられた男性は一瞬驚いた表情をしたものの、すぐに笑顔になった。それを見た彼女は男性に駆け寄り、腕を男性の腰に回した。その場で一言二言会話をした後、男性は彼女につれられて店の中に消えていった。
私達が風俗街を訪れたのは、セックスワーカーの現状をもっと知りたいと思ったからだ。しかし、店の前に固まって座っていた女性達からの視線は鋭く、冷たかった。まるで、「商売の邪魔になるから早くどいてくれ」とでも言っているかのようだった。
 彼女達が生活のためにセックスワーカーとして働いている風俗街を、私は研修の一環として訪れた。彼女達からとても鋭く冷たい視線を向けられたことで恐怖も感じたが、それ以上に彼女達のセックスワーカーという仕事に対する真剣さを感じた。

【第1稿】

 私はこの夏休みに大学が企画するタイ研修に参加した。このタイ研修の目的は、国際開発とはどのようなものか、またどのような機関が関わっているのかを知るとともに農村部の地域開発の現状を知ることである。一週目に様々な国際機関を訪れて組織の活動内容や課題などの講義を受け、二週間目にチェンマイに位置する村でホームステイをしながら農村参加型観光プロジェクトについて考えるというものであった。
研修4日目、私たちは女性達を支援する団体Empower Foundationを訪れ、セックスワーカーの歴史と現状について学んだ。セックスワーカーが誕生した経緯やその日の夜、現地のガイドと一緒にセックスワーカーが多く働いている場所を訪れることになった。
 そこには観光客相手に商売をする出店が多く立ち並んでいた。一見、普通にどこでもあるマーケットだと思っていたが、通りに入った瞬間、今まで見たこともない光景が目に飛び込んできた。道路の両脇に並ぶ店の中では、10代後半から20代前半の若い女性たちがビキニを着てステージ上で踊っている。隣の店では、女性が男性客相手にマッサージをしている。通りを進んでいくと、そこには100人以上の女性たちが店の前で座っていた。
 彼女たちこそ、私が一番衝撃を受けたセックスワーカーである。彼女たちは通りを歩く男性を呼び止め、夜の相手はどうかと誘う。男性が承諾すると、一緒に店に入っていき仕事をする。
 彼女たちの前を通るとき、私はとても恐怖を感じた。まるで獲物を捕まえるかのように通行人を凝視していたのである。彼女たちは、自分の生活のためにセックスワーカーとして働いているため、一人でも多くの客を取ろうと必死なのだろうと思った。
彼女たちがなぜセックスワーカーとして働き始めたのかはわからないが、全員自分に自信を持っているように思えた。自信があり、堂々としていることが、彼女たちの魅力的な部分なのだろう。このことから、私は自分に自信を持つことの大切さを彼女たちから気づかされた。

【第1稿への講評】

 社会性を含む問題への出会いの体験ですね。あなたの中で、書こうと思う体験が、明確なのは評価できます。それが一番重要なことです。ただし、文章化には多くの問題があります。あなたの体験(何を見て、何を聞き、どんな会話をしたか)をきちんと書くことです。場面が見えるように書かねばなりません。
 <通りに入った瞬間、今まで見たこともない光景が目に飛び込んできた。>という下りで、<今まで見たこともない光景>とは何も書いていないのと同じです。どんな光景が目に飛び込んできたのですか。
 いろいろと疑問に思うことがあります。これは何時ごろ行ったのだろうか、とか、何人ぐらいで行ったのだろうかとか、道の幅はどのくらいだろうか、ネオンで煌々としているのだろうかとか。<道路の両脇に並ぶ店の中では、10代後半から20代前半の若い女性たちがビキニを着てステージ上で踊っている。隣の店では、女性が男性客相手にマッサージをしている。>という記述は、あなたたちが店の中に入って実際に見たことなのか、通りを歩いていて、外から見える光景なのか、またはガイドが説明してくれることなのかとか。<そこには100人以上の女性たちが店の前で座っていた。>というのは、どういう状況ですか。店の前にそれそれ呼び込みの女性が座っていて、そのような店が100軒くらいあるということですか、それとも一つの店の前に、そこで働く女性たちが5人とか10人とか並んで座っていて、客引きをしているということでしょうか。
 あなたが記憶で覚えている状況を、思いつくまま書くと、読者はその描写から場面を再現しようとして、再現できないと上のような様々な疑問が出てきます。場面を再現する時に、あなたがその記憶の場面に、もう一度戻って、そこから現地リポートするように記述すれば、その場面は文章として再現されるでしょう。
 <以下省略>

※筆者にとっては、訪ねて衝撃を受けた場所についての記述であるが、第1稿は<見たこともない光景>として印象が羅列されているだけで、読者がその場所をイメージできるように記述されていない。さらに社会性を含んだ題材を扱う場合は、単に対象を描写し、再現すればいいというだけではなく、自らの視点や足場が問われるため、自身の見方や視点を示さねばならない締めの部分が難しい。この「最終稿(第11稿)」の締めも、自身の視点が示されていない。ただし、この作文は第11稿まで修正し、かなり状況が分かるようになった。筆者が、このような題材で自身の体験を描くことのむずかしさを感じることができれば、収穫はあったということになるだろう。

 発信力を高める文章講座


1.情報発信者を養成する文章講座の取り組み(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.言葉のないコミュニケーションから学んだこと
 2-2.諦めないこと
 2-3.「伝える」コミュニケーション
 2-4.オーストラリアでの失敗から得た教訓
 2-5.弟の職業体験から考える賃金格差
 2-6.私が感じた情報格差
 2-7.楽しい世界の造り方
 2-8.「二度の受験を乗り越えて」
 2-9.傷ついて知ったこと
 2-10.旅から学んだこと
 2-11.ホストマザーとのコミュニケーション
 2-12.セックスワーカーの女性たち
 2-13.取材を通して学んだこと
 2-14.日本とインドネシアの架け橋
 2-15.「コミュニケーションが与えるもの」
 2-16.百崎先生との大学受験
 2-17.国境を越えるコスプレ文化との出会い
3.参加者の声
4.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)