スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 長谷川舞帆

旅から学んだこと 【第6稿】

 大学1年の春、長期休みを利用し友人とタイ南部のリゾート地・クラビを訪れたときのことである。私たちはクラビで最も賑わっているナイトマーケットで、じめっとした空気を感じながら夕食を取るために目当てのレストランを探していた。すると、ビジューのついたきれいなドレスを着た3人の美女がこちらに向かって歩いてきた。「スタイル良いなあ、羨ましい」友人が私に耳打ちした。
 私達の視線に気づいたのだろう。彼女らはこちらに近づき、一人が声をかけてきた。「良かったら一緒に写真撮る?」スラッと背の高い彼女が声を発した瞬間、女装をした男性であることに気づいた。「こんなこと滅多にないし一緒に撮ってもらおうよ」友人は笑顔で私に同意を求めた。もちろん賛成だ。スマホを取り出し他の観光客に撮影を頼んだ。彼女らに礼を述べると、うち一人が「ギブ・ミー・チップ(チップをくれ)」と低い声で凄むように言った。他の二人も先ほどの友好的な感じが嘘のように消え、険しい顔つきでこちらをにらみつけてきた。
 私と友人はどうしたらいいか困惑したが、このピンチを切り抜けるためには素直に応じるしかないと思ったので、財布に入っている全ての硬貨を渡した。合わせて200バーツほど。日本円で680円程度である。納得したのか彼女らは立ち去っていった。「日本人だった、ラッキー」と言葉を残して。上手くはめられてしまったことに悔しさを覚えた。こういったことは海外ではよくあると聞くが、慣れていなかったため心が折れた。すると後ろから女性の声が聞こえてきた。
 「あなたたち大丈夫?」 振り返ると男の子を連れた40代くらいの女性が立っていた。「助けてあげられなくてごめんね、子供がいたから…」と私達を気遣ってくれた。彼女は私たちにここで待つように言い、向いのコンビニに入った。マンゴーの缶ジュースをくれた。「ちょっと喋りましょうか」 彼女の優しさに胸がいっぱいになった。
 私たちはコンビニの傍の小さなベンチまで移動し座って話をした。夫婦でサーフショップを営んでいること、最近は夜間が騒がしくなりすぎて少し困っていること、でもクラビの美しい海が好きで何年も住んでいること。彼女はすごくキラキラとした笑顔で教えてくれた。ついさっき起こったいやな出来事も忘れてしまうくらい、本当に楽しいひとときだった。30分ほど話したところで「またどこかで会えたらいいね」と握手をしようとすると、男の子は力いっぱい握り返してきた。
 自分たちが怖気づいてしまったために、ニューハーフからチップを取られてしまい、情けなくてやるせない気持ちになった。「なぜ私たちがこんな目にあわなければならないのだ」とも思った。しかし、その沈んだ気分は一組の親子によって消えた。彼女の優しいほほえみと握手をした時の少年の手の暖かさは今でも忘れることができない。タイでの二つの体験を通して、旅先で出会った人とコミュニケーションをとる事が旅の醍醐味であると気づいた。

【第1稿】

「ニーハオ!ニーハオ!」中国人と日本人との違いが分からないのだろうか。お土産屋の店員が私達を見て声をかけてきた。店先にはタイのお土産として有名なタイパンツやカラフルなアクセサリーがずらっと並んでいる。じめっとした空気を感じながら、その店の前を通り過ぎ、夕食を取るために目当てのレストランを探していた。

 

大学1年の春、長期休みを利用し友人とタイ南部のリゾート地・クラビを訪れた。日本人に人気があるプーケットとは違い、クラビに来る旅行客の殆どがヨーロッパ系である。アジア人は珍しいそうだ。呼び込みの店員が私達を日本人と分からなかったのも仕方ない。「中国人に見えたのかな、面白いね。」友人と私は特に気にすることもなく談笑していると、ビジューのついたきれいなドレスを着た3人の美女がこちらに向かって歩いてきた。「スタイル良いなあ、羨ましい。」友人が私に耳打ちした。

 

私達の視線に気づいたのだろう。彼女らはこちらに近づき、一人が声をかけてきた。「良かったら一緒に写真撮る?」スラッと背の高い彼女が声を発した瞬間、女装をした男性であることに気づいた。「こんなこと滅多にないよ、一緒に撮ってもらおう。」友人は笑顔で私に同意を求めた。勿論賛成だ。スマホを取り出し他の観光客に撮影を頼んだ。彼女らに礼を述べると、うち一人が「ギブ・ミー・チップ(チップをちょうだい)」と低い声で凄むように言った。他の二人も先ほどの友好的な感じはなく、険しい顔つきでこちらをにらみつけてきた。

 

私と友人はどうしたらいいか困惑したが、このピンチを切り抜けるためには素直に応じるしかないと思ったので、財布に入っている全ての硬貨を渡した。合わせて200バーツほど。日本円で680円程度である。納得したのか彼女らは立ち去っていった。「日本人だった、ラッキー。」と言葉を残して。旅行初日にこのハプニングが起こってしまったことが悔やまれるが、次の日からは切り替えて旅を楽しんだ。
このように人から直接馬鹿にされた経験は今までになかったので、頭を殴られたようなショックを感じた。人は皆、良心を持ち生きていると考えていた私は、人を疑ってかからねばならないときもあるということを知った。それは日本を飛び出し、異文化を感じなければ分からなかったことだった。私の今までの考えと価値観にわずかな変化をもたらせた旅になった。

【第1稿への講評】

あなたが伝えたい体験は第3段落の文章で伝わってきます。文章の書き方はよいと思います。
 しかし、これはタイにも、観光客からチップを目当てに写真をとって、お金を要求するせこい商売の人たちがいるということですね。このようなことは世界の観光地なら、タイだけでなく、ヨーロッパでもよくある話です。「日本人だった、ラッキー」というのはチップで680円ももらったので、「気前のいい日本人でよかった」ということでしょうね。タイでチップと言えば、せいぜい1ドルでしょうから。それについて、<馬鹿にされた>とか、<頭を殴られたようなショック>などというのは、余りにも世間知らずという気がします。
 そういう人たちは普通の現地の人ではなく、それを商売にしている人たちなので、良心とか、人を疑うという話ではなく、相手をしなければいいわけです。そういう人たちでなければ、タイでも、エジプトでも、現地の人たちは、非常に良心的な人たちです。その意味では、観光地では観光客をカモにしようと近づいてくる人間には用心しましょうということであって、<人を疑ってかからねばならないときもある>とか<異文化を感じる>というように一般化する話ではありません。
 体験を伝えるという場合は、何か書き込む要素がないといけません。体験の中に①②③ぐらいの場面の展開がある体験はありませんか。

※この受講生は、この作文の前に2つの作文を書きたが、体験を場面として書くことはできるが、単純な話で終わり、体験としての深みや広がりがなかった。この作文では、嫌な思いをした体験の後に、現地の良心的な母子との出会いを加えたことで、外国での人の出会いの話として話に膨らみを持たせる工夫をしている。

 発信力を高める文章講座


1.情報発信者を養成する文章講座の取り組み(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.言葉のないコミュニケーションから学んだこと
 2-2.諦めないこと
 2-3.「伝える」コミュニケーション
 2-4.オーストラリアでの失敗から得た教訓
 2-5.弟の職業体験から考える賃金格差
 2-6.私が感じた情報格差
 2-7.楽しい世界の造り方
 2-8.「二度の受験を乗り越えて」
 2-9.傷ついて知ったこと
 2-10.旅から学んだこと
 2-11.ホストマザーとのコミュニケーション
 2-12.セックスワーカーの女性たち
 2-13.取材を通して学んだこと
 2-14.日本とインドネシアの架け橋
 2-15.「コミュニケーションが与えるもの」
 2-16.百崎先生との大学受験
 2-17.国境を越えるコスプレ文化との出会い
3.参加者の声
4.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)