スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 真鍋希望子

学童キャンプで子どもたちから学んだこと 【第11稿】

私は長久手市にある公設民営の学童保育所で、指導員としてアルバイトをしている。今年の8月、保護者同伴の夏キャンプに参加した。キャンプの一大イベントであるマスつかみでは、川を泳ぐマスに驚きながらも目を輝かせている子供たちに「どう?捕まえられそう?」と声をかけた。
夏キャンプは、毎年三重県にあるキャンプ場で1泊2日で実施されている。 小学1年生から6年生までの子どもたち70人、保護者50人、指導員10人が参加した。「みてみて!こんなに大きな川があるよ!」「今カブトムシがいた!」キャンプ場に着くやいなや大興奮の子ども達。「持ち物ちゃんと持ったー?」私は川遊びや虫捕りに向かう子ども達に叫び続けたが、遊びに夢中になって下級生には私の声は届いていないようだった。
「子どもたちが危ないことをしていないか見ていてくださいね」と先輩から指示を受け、浅瀬で流れの緩やかな川で遊んでいる子どもたちの様子を見ていた。すると、「ののちゃんも一緒に遊んでおいでよ」と保護者の方が声を掛けてくれた。
最終日に行われたマスつかみでは、履き慣れないウォーターシューズに足を取られながら、全員でキャンプ場内の川に放流されているマスの元へと向かった。目の前の小川を泳ぐマスの白銀色が少し眩しかった。キャンプに参加した子どもたちが川岸に横2列に並び、その時を今か今かと待ちわびていた。私の前にいる3年生男子コンビは黒の水着を着こなし、ゴーグルまで装着し準備万端。「あっちの方が取りやすそう?」「いや、向こうじゃない?」と指差しながら、真剣に作戦会議をしていた。
保護者の方が笛を鳴らし、「スタート!」いよいよマスつかみが始まった。子どもたちは前のめりになりながら、笛の合図と掛け声と同時かそれより少し早いぐらいのタイミングで、バシャバシャと波を立てて猛ダッシュ。その勢いに驚いた数十匹の魚はスピードを上げて泳ぎだす。子どもたちを見送ったあと、私は額の汗を手で拭いながら、ジーンズの裾を捲り、川に入る準備をした。太陽の光がキラキラ反射している透明の浅い川に一歩足を踏み入れると、ひんやりとしさ冷たさを感じた。
50匹以上のマスが泳いでいるので、川に入るとすぐに私の両手ぐらいの大きさのマスを見つけることができた。捕まえようと何度も手を伸ばすが、やはりそう簡単にはいかない。何匹ものマスが私の目の前を行き来した。近くできゃっきゃとはしゃぎながらも私と同じように苦戦している1年生の女子グループがいた。彼女らに教えてあげようとマスつかみのベテラン6年生達にコツを聞こうとした時だった。
「ののちゃん、こっち!」どこからか声が聞こえた。振り返って呼ばれた方に行ってみると、5・6年生の子どもたちが川岸をうまく壁にして、簡単そうに魚をつかまえてみせた。さっきの3年生2人が全身濡れて、ようやく一匹ずつマスをつかまえられていたのに比べ、彼らの体は乾いていた。
「こっちの方に引き寄せて?ちがうちがう!こうだよ!」と彼らの指導を受けながら挑戦してみる。「そう!それで、そーっと頭の後ろの方を掴むんだよ!」それでもなかなか思うように出来ないが、諦めずに何度もやってみた。「そう!やったね!」ようやく私が小さなマスをつかまえることができると、私が喜ぶよりも先に、まるで自分のことのように子どもたちは喜んでくれ、「イェーイ!」とみんなでハイタッチをした。
私は子どもたちにやり方を教えてあげようと意気込んでいたのに、逆に教えられることになった。子どもたちが私の「先生」だったのだ。「先生」はマスの取り方を実践してみせてくれたり、説明しながら教えてくれたりした。そのおかげで、私は自分自身で最初から最後まで成し遂げ、達成感を得ることができたのだ。「教える」ということは正解を差し出すことではなく、経験を通して学びの手助けをし、自信をつけさせてあげることではないかと思った。

【第1稿】

セミの大合唱にも負けない大きな声で「おはよう!」と小さな背中に大きなリュックを背負い、子どもたちが学童にやってきた。自分の班の列に速やかに並ぶ上級生と比べて、保護者のそばを中々離れない1年生の子ども達は初めてのキャンプに少し緊張しているような面持ちだ。
私は約1年半学童保育所でアルバイトをしている。今年の夏季休暇、この学童で毎年実施されている保護者同伴のキャンプに指導員の一員として参加した。
「みてみて!こんなに大きな川があるよ!」「今カブトムシがいた!」キャンプ場に着くやいなや大興奮の子ども達。一方で、私は日常生活では見かけない大きな岩や急な坂道などを目の前に少し戸惑っていた。目を離した隙に迷子になる子がいたらどうしよう、怪我をしそうなところはどこだろう、喧嘩の原因になるのはどんな物だろうと様々な不安が押しよせた。「水筒持った?帽子かぶった?ウォーターシューズ履いた?」私は川遊びや虫捕りに向かう子ども達に叫び続けた。遊びに夢中になって私の声は聞こえていない子もいれば、「全部あるよー!」と返事をしてくれる子もいた。上級生は落ち着いて話を聞いてくれて、下級生の面倒も見てくれていたので、ほっと一安心した。
「ののちゃんも一緒に遊んでおいでよ」と保護者の方に声を掛けられた。私の役目は子ども達に怪我をさせないことであり、子ども達と一緒になって遊んでいる場合ではないと思っていたため、「危ないことをしている子がいないか見ています」と返事をした。すると、「痛みを経験しないと、どんなことが危ないのか大人が口で言ってもわからないよね!ちょっとぐらい怪我しとかないと!」と彼女は予想外のことを言った。
彼女のおかげで、それまでの私の行動は子ども達を学びから遠ざけてしまっていることに気づき、子ども達を「監視する」のではなく「見守る」ことができるようになった。

【第1稿への講評】

 自身の体験を記述しようとしていることは評価します。
 場面が見えるように体験を再現しながら、具体的な情報を書き込んでいくという2つのことが必要です。
 「場面の再現」という場合に、あなたと子どもたちの関わりを再現することはかなりできていると思います。 ただし、具体的な情報として、子供たちは何人くらいいて、スタッフは何人、保護者は何人かという、キャンプの規模は書かれていないので、全部で20人くらいなのか、100人くらいなのか規模が分かりません。キャンプ場所は、有名な川の河川敷のキャンプ場ですか。場所名とどのような場所化は具体的に書かないと、キャンプの情景を描くことができません。具体的な情報を、最初に説明として入れるのではなく、場面の中に組み込んでいくことが必要です。
 「学童保育所」というのは、小学生だけですか? 市や区の運営ですか、民間ですか? あなたは当然、分かっていても、文章を読む人にとっては、当然ではありません。キャンプというのは泊まったのですか、それとも日帰りですか。
 あなたが子供たちに声をかけている様子が、様々に書かれていますが、散漫にも感じます。指導員の中には、子供たちを遊ばせる担当の人もいるでしょうが、あなたは保安担当か何か特別の担当だったのですか。多分、救急箱などを置いた本部をつくって、そこに詰めている担当者もいるでしょう。このキャンプでのあなたの役割、立ち位置がよくわかりません。それが分からないので、< 「ののちゃんも一緒に遊んでおいでよ」と保護者の方に声を掛けられた。>というのが、どのような場面の話なのかが見えてきません。
 <「痛みを経験しないと、どんなことが危ないのか大人が口で言ってもわからないよね!ちょっとぐらい怪我しとかないと!」と彼女は予想外のことを言った。>とありますが、<「ちょっとぐらい怪我しとかないと」>というのは言葉だけですが、河原でキャンプをして走り回ったりすれば、転んで足をすりむいたりする子もいるんじゃないでしょうか。キャンプに来ていれば、言葉だけの問題ではないだろうと思います。
 キャンプのリアリティーが感じられるように再現する工夫をしましょう。

【指導の要点】

 学童保育の指導員として夏キャンプに行った時の経験を書いている。第1稿では学童保育と夏キャンプのことを説明しようとしているが、筆者の体験とは何かが見えてこなかった。夏キャンプで筆者が体験したことを再現するように求め、修正を重ねたことで、第4稿で、マスつかみをする場面が出てきた。
最終的に文章は夏キャンプでの体験を書くのに、マスつかみのイベントでの子供たちとの関わりを中心にすえる形になった。それが筆者にとって、夏キャンプで最も「記憶に残った体験」だったのだ。しかし、第4稿まで、そのエピソードが文章に登場せず、筆者は学童保育と夏キャンプについて説明しようとしたのは、なぜだろうか。同様のことは、これまでに出てきたインドネシアやタイでの海外での経験や企業の就業体験を書く時にも、同じように出てくる。自身の「記憶に残った体験」を通して、イベントを描こうとするのではなく、自分の体験はそっちのけで、イベントのことを説明しようとするのである。
この文章の最終稿のように、マスつかみによって、子どもたちからとりかたを教わって、言う通りにしたらマスがとれたという経験をしっかり再現すれば、夏キャンプの楽しさも、筆者と子どもたちの関係も描くことができる。丁寧に自分の気持ちが動いた体験をたどって、再現することで、最終段落では、「教える」ということは何かという筆者の経験が示す意味も捉えられている。

発信力を高める文章講座
1.体験の「場面」を再現するということ(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.バリ島の孤児院でユニタとの出会い
 2-2.タイの子供達との「アルプス一万尺」
 2-3.雪山で出会った人々の温かさに気づかされたこと
 2-4.サービスという仕事
 2-5.15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ
 2-6.ふでばこが教えてくれたこと
 2-7.兄妹の心の壁を壊した結婚式
 2-8.ニューヨークでの苦い思い出
 2-9.学童キャンプで子どもたちから学んだこと
 2-10.よさこいで破った殻
 2-11.主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚
 2-12.挑戦し続けることで人間の可能性は変えられる
 2-13.私と人を繋ぐ就職活動
3.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)
 
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