スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 大西 雪乃

ニューヨークでの苦い思い出 【第9稿】

 ニューヨークの繁華街のタイムズスクエア。昨年、アメリカのノースカロライナ州の大学に留学をしていた私は、秋休みを利用して私と同じ大学から一緒に留学していた先輩と二人で訪れた。平日なのに2mほどの歩道には溢れんばかりの人の数で、歩くのもままならない。ようやく人混みから少し抜けられたとき、私の目には水色のドレスを着た二人が飛び込んできた。実際の顔の大きさの三倍はあろう大きな覆面マスクによって、彼女らが映画「アナと雪の女王」の女王エルサの格好をしているのだとわかる。同じように、ミニーマウスがいるのも見えた。派手な格好である彼女たちに、私は思わず目を奪われた。
 そう油断していた瞬間、黄色いチェックシャツの長い手が私の前に伸びてきた。「あっ」私は胸の前で左手に握っていたスマホを背の高いカウボーイ姿の人に取られてしまった。見上げると、彼らのうちの一人である、アニメ「トイストーリー」の主人公ウッディの格好をしている人だった。彼は「写真を撮るよ」と言い、私のスマホを両手で持ち、横に構えて私たちにカメラを向けてきた。
 すると、いつの間にか他のキャラクターたちが私たちの背後に回っていた。彼女たちは「こっちこっち」というように彼女たちの隣に並ぶように手招きしてくる。わたしはよく考えずに写真を撮ってもらうために並ぼうと彼女たちに一歩近づいた。三人もわたしと先輩の間にうまく入るように近づいてきた。そのとき、先輩が「これってお金取られるやつじゃない?」
 「えっ」彼らの目的に気づいたときには遅かった。ひきつった顔のまま、私たちはパシャパシャと写真を何枚かとられてしまった。そしてすぐにカウボーイ姿のウッディが私にスマホを返すと、女王エルサの格好をした一人が「チップをくれ」と手書きで書いたスケッチブックを見せながら、「20ドル、20ドル」と低い声でチップとしてのお金を要求してきた。困った私は苦笑いで先輩と目を合わせ、チップを払うのを最初は拒んだ。
 しかし、彼らはだんだん私たちを取り囲むように迫ってきて、全員でお金を要求してくる。「20ドル!20ドル!」と四人の声はだんだん大きくなってきた。覆面マスクのせいで表情はわからないが、少し怒っているようだった。しょうがなく私たちは財布を取り出し、20ドルずつ渡した。それでも「全員分くれ、1人20ドル」と一人20ドルで四人分渡せとエルサの一人がまだせがんでくる。「一刻も早くこの場から離れたい」と先輩とまた目を合わせた。私たちはしぶしぶ、もう20ドルずつ渡した。
 彼らは「さっさと出せばいいんだよ」と言わんばかりの態度で、棒読みで「サンキュー」と言い、私たちは解放された。私は安心したのと同時に40ドルも取られてしまったという喪失感から急にどっと疲れが出た。
 私たちはこの突然の出来事に相手の要求を受け入れることしかできなかった。それは自分の甘さと未熟さが原因だろう。この不測事態に対して、逃げることよりも、相手の要求に応じて丸く収めた方が楽だととっさに考えてしまった。一方で彼らも少し強く言えば日本人は断れない性格だということを知っていたのだろう。そこにまんまと私たちは付け込まれてしまった。このような不測事態が起きても怖気づくことなく、はっきり断る力が自分には足りないのだと学んだ出来事であった。

【第1稿】

  「うわー、すごい人の数」まるで魚の群れかのように歩道から溢れんばかりの人で夕方であるにもかかわらず人の熱気で暑いと感じる。車のクラクションがあちらこちらで鳴り響き、チカチカと光る無数の電光掲示板。わたしは留学先が一緒であった先輩と2人でニューヨーク、タイムズスクエアに来ていた。
 ようやく人混みから少し抜けられたとき、私たちの目の前にはミニーマウスやアナと雪の女王のエルサなどのディズニーのキャラクターの仮装をした4人組がいた。「わ〜なんじゃこりゃ〜」と驚きつつ、物珍しさに彼らを見つめてしまった。そう油断していた瞬間、「あっ」わたしは手に握っていた携帯を彼らのうちの1人にとられてしまった。彼らは慣れた様子で「写真を撮るよ」と言ってくる。わたしはよく考えずに写真を撮ってもらうために彼らの隣に並ぼうとした。そのとき、先輩が「これってお金取られるやつじゃない?」
 「えっ」気づいた時には遅かった。パシャパシャと写真を何枚か撮られてしまった。そしてすぐに「チップをくれ」と書いた紙を見せながら「20ダラーズ、20ダラーズ!」とせがんできた。私たちは渋っていたのだが、彼らはだんだん私たちを取り囲むように迫ってくる。わたしの携帯はそのとき返してくれたためこのまま逃げてもよかったのだが、追いかけられでもしたら困る。だから私と先輩はとりあえず20ドルずつ渡した。しかし、「全員分くれ、1人20ドル」とまだせがんでくる。「一刻も早くこの場から離れたい」私たちはしぶしぶ、もう20ドルずつ渡してしまった。
 彼らは特に満足した様子も見せずに冷たく「センキュー」と言い、私たちは解放された。わたしは安心したのと同時に40ドルもとられてしまったという喪失感から急にどっと疲れが出た。

【第1稿への講評】

  体験談にはなっていますね。しかし、基本的な情報が抜けています。いつのことですか? どういう状況ですか? タイムズスクエアは平日ですか、なにかの記念日ですか? タイトルには<旅先>とありますが、本文では<留学先が一緒の>とあるのは、どこかに留学していて、NYに旅行で北ということですか。説明先行では困りますが、状況は分かるようにしなければなりません。
 <留学先が一緒の先輩>というのは日本人ですか? 先輩というのは留学先の先輩ですか、名古屋外大の先輩ですか。あなたは当然、分かるでしょうが、文章読んでも分かりません。
 <私たちの目の前にはミニーマウスやアナと雪の女王のエルサなどのディズニーのキャラクターの仮装をした4人組がいた。>というのは、歩道の上ですか。仮装した人たちは他にもいたのですか、そのひとたちだけですか。仮装パレードか何かですか? タイムズスクエアの様子は、普通の日本人には分かりませんから、イメージできません。
 4人のうちの1人があなたの携帯をとって、「写真をとる」というのは、他の3人があなたの脇について、それをとるということですか。携帯をとって、写真を撮ろうとしたのは、何の仮装をしているのですか? 写真は先輩も一緒に撮られたのですか?4人というのは、男女ですか? チップを求めたのは、どのキャラクターですか。イメージできるように書けば、説明的にならないでしょう。
 < 彼らは特に満足した様子も見せずに冷たく「センキュー」と言い>というのは、<彼らは特に満足した様子も見せずに>というのはあなたの思いですね。<冷たく「センキュー」と言い>の冷たくというのは、あなたがそう感じたということで、読者としては、どういったのか想像するしかありません。読者に伝わるように表現しなさい。想像すれば、写真とるだけで80ドルももらったのだから、喜んで、上機嫌で「サンキュー」というのが普通じゃないでしょうか。腑に落ちない表現です。何か、彼らが <冷たく「センキュー」と言う>理由があるのですか?
 場面ははっきりしているはずですが、それが文章で伝わってきません。描写的ではなく、説明的な文章だからです。40ドルだけでなく、さらに40ドル渡したのはなぜか、この文章では場面が伝わりません。工夫しましょう。

【指導の要点】

 筆者の体験は明確だが、それをどのように書けば、読者に伝わるかが課題だった。仮装したアニメのキャラクター4人が登場し、お金を払うことになる経緯があるため、キャラクターの説明や、経緯の説明など盛り込まねばならない情報が多く、それを説明していると説明だけで終わってしまう。説明になると、体験としての臨場感はなくなる。体験としての場面を再現しながら、必要な説明を体験の中に織り込んでいくことが必要になる。そうすることで、筆者の体験を読みながら、登場人物の描写も、経緯も理解できるようになる。
写真をとるだけで4人の1人ずつに20ドル払うというのはあり得ない話であり、説明だけだと理解しがたい。体験を再現することによって、筆者が「ノー」といえないまま、お金を渡してしまった行動が読者にも伝わることになる。
最終段落の締めでは、この体験をどのように意味づけるかが問われ、筆者はかなり苦労したが、<逃げることよりも、相手の要求に応じて丸く収めた方が楽だととっさに考えてしまった。一方で彼らも少し強く言えば日本人は断れない性格だということを知っていたのだろう。そこにまんまと私たちは付け込まれてしまった。>と、法外なチップを取る強引な手法に「ノー」といえなかった自分を見る視点が出てきたのは評価できる。

発信力を高める文章講座
1.体験の「場面」を再現するということ(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.バリ島の孤児院でユニタとの出会い
 2-2.タイの子供達との「アルプス一万尺」
 2-3.雪山で出会った人々の温かさに気づかされたこと
 2-4.サービスという仕事
 2-5.15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ
 2-6.ふでばこが教えてくれたこと
 2-7.兄妹の心の壁を壊した結婚式
 2-8.ニューヨークでの苦い思い出
 2-9.学童キャンプで子どもたちから学んだこと
 2-10.よさこいで破った殻
 2-11.主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚
 2-12.挑戦し続けることで人間の可能性は変えられる
 2-13.私と人を繋ぐ就職活動
3.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)
 
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