スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 礒元唯

兄妹の心の壁を壊した結婚式 【第11稿】

今年の5月、6歳上の兄の結婚式が行われた。結婚式は人前結婚式の形で行われ、披露宴は二人の手作りムービーから始まり、兄からの奥さんへの最愛の意味を込めた11本のバラのサプライズプレゼントなど暖かみの溢れる式だった。披露宴が進み最後の新郎の挨拶になり、兄夫婦が私達の座るテーブルのすぐそばに来た。すると兄は「僕に少し時間をください」と言い私の方を向いた。兄は続けて「僕は妹と仲良くありません」と言った。
 私は家族と一緒に会場の1番後ろの親族席にいた。兄はこんな場でいきなり何を言い出すのだろうと、私は驚きが隠せなかった。兄は続けて「6歳離れている妹とはあまり話さずに兄妹間に溝が出来てしまいました」と言った。兄がそう言った時、私は兄の話を聞きながらこれまでの私達兄妹の関係を思い出していた。兄が高校生の時に家を出てから今もお互い別々に暮らしているため、兄と離れて暮らして10年以上たつ。お互いが成人し、兄は私に時々話しかけてくれるようになったが、私は今もあまり兄と話すことができないでいる。
 私達がこうなったのは私が小学校低学年の頃からだ。その頃兄は中学生になり、急に家族への態度が冷たくなった。「勉強しなさい」、「早くお風呂に入りなさい」という両親の些細な言葉や、私の「お兄ちゃん」という呼びかけにも「うるせえ」と言い無視するようになった。その頃の兄はいわゆる反抗期だったのだろう。だが当時小学2年生の私には、それまでいつも一緒に遊んだり話をしたりしていた兄の急な変化が衝撃的であり、怖かった。
私が小学二年生の頃、中学生の兄が友達と家で遊んでいた時、私が何も知らずに兄が友達といる部屋のドアを開けてしまったことがある。その瞬間兄に「勝手に入るな!邪魔だ!出ていけ!」と言われた。その時の兄の冷たい言葉と視線は小学生ながらに私の頭に焼き付いて離れなかった。そこから私の頭の中に兄は怖いという固定観念が出来上がった。その固定観念が何年たっても取れずに今に至る。
 そんな兄が私について話しているのだ。「僕は妹とは距離を置いたまま家を出てしまいました。その事を考えると感慨深いものがあります」兄は少し涙ぐんだ声で、私をまっすぐ見つめながら言った。それは私が初めて聞いた兄の私との関係に対する本音だった。兄は話の最後に「今は妹のことを心から応援しています。今からでも仲のいい兄妹に戻りたい」と目に涙をためて言った。嬉しかった。私は気づいたら涙が止まらなかった。その瞬間、私達兄妹の間にあった壁が壊れたような気がした。
 この日私は兄がどれだけ私の事を考えてくれていたかを知った。それと同時に、兄との関係について真剣に考えた。お互いに大人になり、私に歩みよってくれていた兄に対して過去に固執し距離を置いていたのは自分だけだったと気づいた。兄ともう一度仲良くなりたい、そう強く思った。披露宴の後、「お兄ちゃん、結婚おめでとう!」兄に笑顔でそう伝えることが出来た。兄が少し照れながら「ありがとう」と言ってくれた事は私の中で忘れられない瞬間だった。
 兄の結婚式で私は初めて兄と向き合い、兄妹にあった壁を壊すことが出来た。兄が勇気を出して私に対する思いを話してくれた事は、兄との関係からただ逃げていた私を強く突き動かした。それはまさに長い間止まっていた私達兄妹の時間が再び始まる瞬間だった。私は10年間という私達の分厚い壁を破いた兄は、私よりも遥かに大人であり、強い人であると感じた。兄が扉を開けてくれた分、これからは私が積極的に兄に歩み寄らなければいけないと強く思った。

【第1稿】

 私は兄が怖い。私には6歳上の兄が1人いる。小さい頃から兄が怖く、今もあまり話す事が出来ない。きっかけは私が小学生の頃、反抗期真っ只中の中学生の兄に冷たくされ続け、それがトラウマになってしまったからだ。それ以来、私は兄が怖くて苦手だ。そしてその関係のまま今に至る。そんな兄が今年の頭に結婚をし、5月に結婚式が行われた。そこで私は初めて本当の兄を知った。
式が始まるまで、私はドラマや映画でよくあるような形の結婚式を想像していた。そんな私の想像は式開始1分で覆された。兄の結婚式は最初から最後まで笑い声と笑顔で包まれていた。式の内容や披露宴の演目、料理、装飾など細部までゲストに楽しんでもらう事を1番に考えて構成されていた。披露宴の途中では兄から奥さんへのサプライズパフォーマンスもあり、私は今まで知っていた怖い兄とのギャップにただただ驚いていた。
 披露宴の最後に、兄から参列者へお礼の挨拶があった。するといきなり兄が「僕に少し時間をください」と言い、私の方を向いた。そして今まで私に対して抱いてた想いを話し始めた。その中で兄は、私に冷たくした事を後悔しているという事、今は心の底から私の事を応援しているという事を話してくれた。そして最後に、「今からでも普通の仲の良い兄妹になりたい」と私の目を見て言ってくれた。気づいたら涙が止まらなかった。その瞬間、私達兄妹の中にあった大きな壁が少し壊れたような気がした。 
 あの日私は、兄は周りの人を愛し、愛される人であると知った。そして口をきいていなかった時も兄は私の事を考えてくれていたのだと分かり、過去に捉われまともに兄と話をしなかった10年間を悔やんだ。私も兄と向き合わなければいけないと強く思った。披露宴が終わった後、兄に「結婚おめでとう」と笑顔で伝える事が出来た。少し恥ずかしかったが嬉しかった。あの瞬間、私にとって怖かった兄は、少し怖くて自慢の兄になった。

【第1稿への講評】

 あなたの体験の場面がはっきりしているのはよいと思います。 あなたの話の中心は、兄の結婚式で兄があなた向けに話をしたことですね。そこを中心に書いて、その話の中に、これまでどうだったかという話をおりこめばいいでしょう。
最初の第1段落の説明で、<小学生の頃、反抗期真っ只中の中学生の兄に冷たくされ続け、それがトラウマになってしまったからだ。>と書いても、この文章を読んで、どういうことか分かりません。あなたには、 反抗期の兄から冷たくされた具体的な場面が思い浮かぶでしょうが、それを文章にしないと、<反抗期真っ只中の中学生の兄に冷たくされ>では、具体的にどういうことなのか伝わらないのです。
 まず、兄が結婚式であなたに対する思いを語った場面を書いて、その中に、昔の話を組み込めばいいでしょう。

【指導の要点】

  第一稿から兄の結婚式の出来事は印象的な場面となっているが、筆者が「兄が怖くて苦手だった」と語る過去の話は、漠然としていて、具体性がなかった。過去の兄との関わりを示す記憶の中の場面を、しっかりと思い出して、再現することで、兄が関係修復を語る背景に何があったからが、読者に伝わることになる。第11稿まで現在と過去の両方で、自身の体験を丹念に再現する修正を重ねたことで、妹から「怖くて苦手」と言われた兄の行動は、どの家庭にもある子供の反抗期に関わる問題であることが見えてきた。
家族の問題に限らず、人間関係についての体験を文章にすることは簡単ではない。説明しようとすると、どうしても自分の視点と立場からの説明になり、客観的に見ることができない。それは筆者自身にとってもそうであるし、その文章を読む読者にとっても同じである。自分の体験を客観的に見ることの一歩として、自分の体験を再現してみる。文章で体験を再現するということは、自分の視点から見るだけでなく、過去の場面に立ちかえって、自分自身をも外から見る契機となる。
過去の体験に立ちかえれば、筆者が「兄が怖い」というのは、兄が反抗期だった時に筆者の幼い体験であり、その時に「怖い」と思ったことがそのまま残っていることが分かるだろう。現在の体験は、結婚を機に妹と良い関係をつくって行こうとして、呼びかけをした兄の人間的な側面が、より鮮やかに浮き上がってくる文章になった。
 兄弟姉妹で6歳の年の差は、幼いころは大きな差であり、子どものころの関係や思いが大人になっても残ることは、この筆者に限らずあることであろう。このように個人の体験であっても、体験をしっかり再現する文章となれば、私にも似たような体験があるという共感につながるものである。

発信力を高める文章講座
1.体験の「場面」を再現するということ(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.バリ島の孤児院でユニタとの出会い
 2-2.タイの子供達との「アルプス一万尺」
 2-3.雪山で出会った人々の温かさに気づかされたこと
 2-4.サービスという仕事
 2-5.15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ
 2-6.ふでばこが教えてくれたこと
 2-7.兄妹の心の壁を壊した結婚式
 2-8.ニューヨークでの苦い思い出
 2-9.学童キャンプで子どもたちから学んだこと
 2-10.よさこいで破った殻
 2-11.主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚
 2-12.挑戦し続けることで人間の可能性は変えられる
 2-13.私と人を繋ぐ就職活動
3.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)
 
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