スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 高村沙綾

15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ 【第10稿】

「搭乗されるお客様はお急ぎください!」と、私は出発時刻が迫った沖縄便の乗客を探して空港の通路を走った。繁忙期であるお盆シーズンの夏、羽田空港で地上サービス職の就業体験をし、2日目に出発ゲートで搭乗客対応を担当した。多くの乗客が搭乗券と共にゲートをくぐり終え、ゲート付近が静まり返った出発時刻の15分前、まだ5人もの搭乗客がゲートに到着していなかった。
チェックイン端末を見ると、1人は女性客、3人は国際線から乗り継ぎの中国客、そしてもう1人はいつもご利用の、ビジネスクラスの男性客だとわかった。「こちら沖縄便ゲート25の高瀬ですが、5人のお客様がまだ到着されていません、1人は…」私の教育担当の高瀬主任がトランシーバーで他の社員に搭乗客捜索の手伝いを求める。
彼と私は、迷っている可能性があるエコノミークラスの女性を探しに、そして手伝いに来た2人の社員は中国人とビジネスクラスの搭乗客を探しに、3つに分かれて走り出した。
 「沖縄便お乗りの〇〇様いらっしゃいましたら必ずお申し出ください」私が大声で叫びながら通路を走っていると、中年女性が肩にかけた鞄をずり下げ、息を切らしてこちらに向かってきた。「○○様でいらっしゃいますか?」高瀬主任の問いかけに苦しそうに「そうです」と答えた女性に、「ゲートまで走りましょう!」と、私は女性と一緒に走り出し、出発10分前にゲートに着いた。
 安堵もつかの間、まだ残りの搭乗客と接触できてないことを知った。「4人のお客様の荷下しお願いします」乗れない場合、チェックインで預かり、すでに飛行機に積んである荷物を降ろさなければいけない。迫る出発時刻に、高瀬主任が仕方なく無線を飛ばした。その直後、「中国人のお客様とお会いできました!」「会員の○○様今お会いできました!」高瀬主任の持つトランシーバーから2つの声が聞こえた。
 「先ほどの荷物を戻してください!」3人は走ってくれ、すぐに到着したが、スーツのポケットに両手を入れた会員の男性客は気怠そうにゆっくりと歩く。これでは間に合わないと思い「定時出発にご協力頂けますでしょうか?」社員が優しい口調で声をかけ、本来ならばドアを閉めるはずの3分前になんとか搭乗完了した。グランドスタッフ、客室乗務員、整備士全員「お急ぎありがとうございました」と声を揃えた。そしてなんと、飛行機は定時で出発した。
 約40分間で行う搭乗手続きの中の最後の15分は、定時運行のために空港内を走り回る、空港地上サービス職が体力勝負と言われる最も象徴的な部分であるだろう。それと同時に、定時運行のために徹底されたチームワークや、余裕がない状況でも最後まで乗客への敬意を忘れない日本のおもてなし精神を目の当たりにできる部分でもあった。この15分はいつも「当たり前」に過ぎる15分。しかし、これを境に私は15分の重大さを考えながら行動するようにしている。今日もたったの15分間で、当たり前な日常が作られている。

【第1稿】

 私は今年の夏に羽田空港で株式会社JALスカイの就業体験をしました。1週間ほどの短い就業体験だったのですが、実際に国内線の旅客サービス部グランドスタッフとしての業務を行うというとても貴重な体験ができました。この就業体験はエントリーシートを提出し、連絡が来た人のみの参加であった為、参加人数も多くはなく、一人一人丁寧に教えてくださる就業体験でした。
 なぜこの体験が私にとって貴重であったかというと、私にとって影響力のある方に出会えたからです。その方というのは、1週間の就業体験において、私に1対1で付いてくださった入社2年目の男性の先輩です。先輩はパイロット志望でJALスカイに入社したのですが、最初の2年はグランドスタッフの旅客サービス部で仕事をしているそうです。
 その先輩は私にグランドスタッフとしての業務だけでなく、業務を行う上での考え方を教えてくださいました。その中で印象に残っているのは、搭乗前のアナウンスをする際には、この便がどの路線でどんな客層かによって何回搭乗方法のアナウンスをするか判断することや、その便が小さい機材を使用する便であったら、先に手荷物を一つにしてもらえるように配布している袋の案内のアナウンスを何度かすることです。
 例えば、リゾート路線である沖縄線では搭乗待機の間、ゲートは騒がしく、旅慣れてないお客様が多数なことが多い為何度かアナウンスをするようにし、ビジネス路線の時は旅慣れている方が多いので、代わりに追加1000円で変更できる広めの座席が空いていたら変更可能のアナウンスをするなど全てにおいて考えながら行動していました。
 この考え方は先輩が入社前に出会ったパイロットの方が客層によってルートを変えるとおっしゃっていたのに驚き、それを今のグランドスタッフの仕事で応用させているそうです。私もこのように学んだことを応用し、自分なりの仕事ができる人間になりたいと思いました。

【第1稿への講評】

 課題として求められているのは、説明ではなく「体験の場面」です。あなたの文章は、あなたの就業体験についての説明であって、体験の中で記憶に残った「場面」がありません。場面とは何かを考えなさい。

【第2稿への講評】

 先輩に業務上の心得の説明を受けたことだけが、あなたの体験ならば、そこには個人的な体験としての中身がないということです。
 この就業体験をしたことが、あなたにとっての記憶に残った体験で、この就業体験をしたことを文章に書きたいのでしょうが、それでは発想が逆です。
 この就業体験の中で、あなたの心に残る体験の場面があれば、それを書きなさい。

【指導の要点】

 第1稿、第2稿は、筆者が航空会社の就業体験で学んだことを説明している文章であって、この文章講座が課題としている「記憶に残った体験」の文章化にはなっていなかった。就業体験を行った企業に向けて出すレポートのような文章であり、体験そのものよりも、体験によって自分が何を学んだかという体験の意義をつづっている文章である。このような文章は、このような就業体験や、研修の体験、留学体験など学生たちが自分にとって学びの場だったと言いたい時の文章では多く見られる。自分が何を体験したかという体験そのものではなく、自分にとってその体験がどれほど意義があったかを強調しようとする。その結果、筆者がどのような体験をしたかが、文章を読んでも伝わってこない。
  研修を受けた企業に提出するような<内向きの>「就業体験」を書くのではなく、就業体験の中で、自分が何を体験したのか、どのような場面が記憶にのこっているかを考えさせ、誰が読んでも筆者の体験が分かるように、体験そのものを再現するように指導した。この学生が、研修の中での、自分の経験を文章として再現することができたのは、第6稿あたりであるが、その後、最終稿にいたるまでに見違えるような発展を見せ、しっかりと体験がイメージできる文章となった。
もし、この文章が就業体験をした企業に提出するものであったとしても、第1稿のような文章では、よくまとまっているが、企業の担当者の目を引く文章とはならないだろう。なぜなら、文章は、ほとんど研修の担当者が教えたことを繰り返しただけだからだ。しかし、最終稿のような文章であれば、企業が研修の中で伝えたいことが、研修を受けた学生の体験としてまざまざと再現され、企業の担当者にとっても価値のある文章となるはずである。

発信力を高める文章講座
1.体験の「場面」を再現するということ(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.バリ島の孤児院でユニタとの出会い
 2-2.タイの子供達との「アルプス一万尺」
 2-3.雪山で出会った人々の温かさに気づかされたこと
 2-4.サービスという仕事
 2-5.15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ
 2-6.ふでばこが教えてくれたこと
 2-7.兄妹の心の壁を壊した結婚式
 2-8.ニューヨークでの苦い思い出
 2-9.学童キャンプで子どもたちから学んだこと
 2-10.よさこいで破った殻
 2-11.主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚
 2-12.挑戦し続けることで人間の可能性は変えられる
 2-13.私と人を繋ぐ就職活動
3.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)
 
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