スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 中面くるみ

サービスという仕事 【第10稿】

 「ラストオーダーがこんなに早いなんて聞いていないわ」とお客様は声を荒げた。8月のある土曜日、私が大学1年から続けるアルバイト先の焼肉店で50代くらいの夫婦であろう2人は、1時間半の時間制限のテーブル席で食事をしていた。私は、ラストオーダーの時間が45分前であるということを伝え忘れていた。「それなら、先に言ってくれよ」と2人は、オーダーを聞くためかがんでいる私にテーブルの両サイドから交互に言って、怒りをぶつけた。
「くるみさん、8卓の方がラストがこんなに早いって聞いてないって怒ってます」ラストオーダーを聞きに行き、戻ってきた後輩が言った。「それで10分後にベルを鳴らすからそれまで待つようにだそうです」「本当?あ、確かに伝えてなかったかも」と自分のミスに気付いた。
そのお客様は、午後5時30分の開店と同時にやってきた50代くらいの夫婦だった。「7時から予約がございますのでそれまでのお席でしたらご用意できます」と私は予約帳を確認してお伝えした。「ああ、それでいいよ」と男性が快諾し、テーブル席で向かい合って食事をされていた。しかし、この時私はラストオーダーを45分前に伺うことを次のお客様の案内をしていたために伝え忘れていた。
「失礼いたします」私は、後輩が戻ってきてから5,6分後にお客様の下へ向かった。私の姿をみるとお客様はあからさまに嫌な顔をされた。そして二人ともすごい剣幕で「なぜもう来るんだ、まだ10分経っていないだろう」「さっきの男に聞かなかったか、これで呼ぶまで来るなと言っただろ」と男性がベルを指さしながら言い、「最初に言ってくれればよかったじゃない」と女性が男性に続いて言った。二人は同意しあいながら私に交互に言った。
私はかがんでまず「ラストオーダーをお伝えしておらず、大変申し訳ございませんでした」と謝った。「ですが、時間内にお召し上がりいただくために今のお時間でお食事はラストオーダーにさせていただきたいのですが」と続けた。「それはそうかもしれないけど、こっちは聞いてないし、さっき10分後って言ったよな」「そうよ」お二人はテーブルの両側から口々に言った。確かに45分前ということをお伝えはできていなかったし、最初にスタッフがラストオーダーを聞きに行ってから10分も経っていない。
「もういい、会計」と男性はひとしきり話をし終えるとそう言って不満げに財布を取りだした。会計の最中も「早くして」「何にそんなに時間がかかっているんだ」とテーブルで会計が終わるのを待たず、店の入り口へ向かって歩いてきた。2人はカウンターに並ぶお客様を気にすることなく、カウンターのなかで調理する店主へ「こんな店、二度と来ない」と言い残して午後6時30分頃帰っていった。
 お客様をここまで怒らせてしまったのは、3年以上アルバイトを続ける中で、初めてだった。私のミスからここまでの大事になり、「もう2度と来ない」とまで言わせてしまった私たちのサービスを見直すきっかけになった。改めて考えると、あの日、私は店側のルールを押し付けるような言い方をしてしまったかもしれないと思った。サービス業で働くということは、店側だけでなく、常にお客様の立場で物事を考えることも必要であり、それを怠ったとき大事になってしまう怖さを学んだ。

バイト先でのとある出来事から感じたジェンダー【第1稿】

私は大学1年の4月から留学期間を除く現在まで飲食店でアルバイトをしている。私の働く店は、週末は予約がないと入店が難しい人気店である。8月のある土曜日の17時30分の開店直後に予約なしの2人のお客様がやってきた。50代くらいの夫婦と見受けられた。この日も予約で席はいっぱいだったのだが、19時からの予約のお席でそれまでにお帰りいただくという時間制限付きでのご案内ということになった。
その後いつものように18時15分に19時までの時間制限のある席にラストオーダーを伺った。その際、先程の2人のお客様のもとへ後輩の男の子が行ったところ、そんなに早くラストオーダーがあるとは聞いていないと怒り始め、10分後に呼ぶからそれまで待つように言われたそうなのである。
確かにラストオーダーが45分前であることは伝えておらず、こちらにも落ち度はあったのだが、料理を作る時間とお召し上がりいただく時間、お会計と帰られた後の次のお客様の席の用意などの時間を考慮すると10分も待てなかった。私は、何度も同じ店員が行くよりも、年長者でありホール全体の管理をする私が行き、謝罪と説明をする必要があると考え、10分を待たず再度ラストオーダーを聞きに向かった。
お客様はお二人ともものすごい剣幕でお怒りで「なぜラストオーダーの時間を事前に伝えなかったのか」「さっきの男は10分待つように伝えなかったのか」などと言われたが、何よりも心に刺さったのは「どうして女が来るのだ」「さっきの男はどうした」という男性からの言葉だった。さらに男性は帰り際には最初に対応した男の子に「女に行かせるなんて卑怯だ」と言ったらしい。結局、お客様は、ご立腹のままラストオーダーを注文せずすぐにお会計をされ、「こんな店二度と来ない」と捨て台詞を吐いて帰っていった。
もし私が男だったら、お客様は納得していたのだろうかと考えさせられると同時に、固定観念として残る伝統的なジェンダーを感じた。

【第1稿への講評】

 最後に客とのやりとりは場面になっていますが、その前に延々と説明が来ているのは、必要ありません。<体験の場面>を書くという課題なのですから、客のやりとりを中心に書いて、そのやり取りの中に、必要な説明を入れるということです。この文章は、<説明の後に場面>となっていて、説明中心です。説明は場面を再現してから、必要な説明だけ入れればいいのです。
 <何よりも心に刺さったのは「どうして女が来るのだ」「さっきの男はどうした」という男性からの言葉だった。>という部分も、この書き方では説明ですね。根本的な修正が必要です。

【第2稿への講評】

 この文章の中心は、後半ですね。お客さんが「ラストオーダーが早い。そんなこと聞いてない」と言い出すところですね。その前の話は、ルーティンの説明に過ぎません。客のクレームについて、あなたがどのように対応し、どのような体験をしたかを中心に書きなさい。客が怒っている場面を書いて、なぜ怒っているかを説明すればいいでしょう。
文章のタイトルは<バイト先でのとある出来事から感じたジェンダー>とありますが、ジェンダーの部分は<ラストオーダーを聞いた後輩に「女に行かせるなんて卑怯だ」と言ったらしい。>という最後の部分で、それも、あなたが直接言われのではなく、<言ったらしい。>という伝聞ですね。この書き方と、この材料では、このタイトルをつけることはできません。
自身の体験を記述する場合は、その時の自分が置かれた状況を思い起こさねばなりませんが、もう一つ、客観的な目で、自身の体験を見る目も必要になります。
あなたの体験の場合、お客が「女に行かせるなんて卑怯だ」と言ったのは、最初に席を案内した男性スタッフ(あなたの後輩)を、席の責任者だと思っていて、クレームがあるのに、別の女性スタッフが来たので、部下の女性スタッフに謝らせに来たと誤解したのかもしれません。お客には、店の中の先輩、後輩は分かりません。「女に行かせるなんて卑怯だ」という客の言葉も、あなたが直接聞いているわけではないので、実際には「なぜ、(席を案内したスタッフが来ないで)別の女性スタッフがくるのか」と責任逃れを詰問したのを、その言葉を聞いた店のスタッフが「女に行かせるなんて卑怯だ」と解釈して、そのようにあなたに伝えたのかもしれません。
体験を記述するというのは、「事実」として書くわけで、あなた自身が聞いた言葉と、伝言で聞いた言葉では、重要度が全く異なります。あなたが聞いた言葉はあなたの責任で書くことができますが、伝言の場合は、実際に本人がなんと言ったかは、あなたには分からないので、中途半端な書き方はできません。
そのように考えると、この体験であなたが直接聞いたわけでもない「女に行かせるなんて卑怯だ」という発言をキーワードとして、<バイト先でのとある出来事から感じたジェンダー>とタイトルをつけるには無理があります。
働いていて、トラブルが起こることはあることで、そのトラブルの体験を書こうというのはよいと思います。書き方と共に、テーマについても考えてみましょう。

【指導の要点】

 アルバイト先でのトラブルを扱ったが、店のラストオーダーの仕組みや、ミスが生じた経緯など、説明しなければならないことが多いため、第1稿では、説明中心の文章だった。説明にしないで、具体的な場面や会話を入れて、自身の体験を再現しながら、必要な説明を入れて行くことで、文章と通して何が起こったかが分かるようになった。
体験の意味づけについても、同僚から伝聞で聞いた言葉をキーワードとして女性蔑視の問題と意味づけることの危うさを指摘し、自身が経験したトラブルそのものから問題を探ることを指導した。最初は自分が働く店の理屈だけで、客が短気で怒っていることを問題視する見方が強かったが、自分の体験を再現する時に、自分自身の問題にも目を向ける必要性を指摘し、客をもてなすサービス業の在り方として、客を怒らせてしまった対応に問題はなかったかを顧みる見方も出てきた。自身の体験と文章で伝えるということは、まず、自身の体験に向き合うことが必要であり、体験を再現しながら、その体験を客観的に見ることにもつながることを示す例となった。

発信力を高める文章講座
1.体験の「場面」を再現するということ(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.バリ島の孤児院でユニタとの出会い
 2-2.タイの子供達との「アルプス一万尺」
 2-3.雪山で出会った人々の温かさに気づかされたこと
 2-4.サービスという仕事
 2-5.15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ
 2-6.ふでばこが教えてくれたこと
 2-7.兄妹の心の壁を壊した結婚式
 2-8.ニューヨークでの苦い思い出
 2-9.学童キャンプで子どもたちから学んだこと
 2-10.よさこいで破った殻
 2-11.主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚
 2-12.挑戦し続けることで人間の可能性は変えられる
 2-13.私と人を繋ぐ就職活動
3.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)
 
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