スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 宮城ひろの

主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚 【第11稿】

青白スポットライトに照らされながら倒れて死にゆくジュゴンの子供たち。私はその頬に手をなでながら、助けを求めるように手を上に伸ばした。私は高校二年生の時、所属するバレエスタジオの発表会で、沖縄の海に住むジュゴンの母親を演じた。

賑やかな沖縄民謡を琉球交響楽団が演奏したメロディーにのせて華やかに物語は進む。綺麗な海を思わせるブルーのグラデーション照明に、魚役の出演者たちの色とりどりの衣装が映える。

物語中盤、皆の幸せな普通の生活を描いた場面で、「このままこの幸せな普通が続きますように」そう願いながら、私のソロ曲「童神」を踊る。笑顔で見つめ返してくれる出演者一人一人に目線を合わせながら豊かな日常の永遠を想いながら舞台上を軽やかに駆けていた最中だった。

「ゴゴゴゴゴゴゴゴォオ」という巨大音とともに今までのオーシャンブルーの照明から赤土色の照明に変わる。埋め立て工事が始まったという合図だ。土砂を模した大きな茶色の布に私自身も絡まれていく。「たすけて!私の子供たちは!」心の中で叫びながら必死に解こうともがく。大きな破裂音と共に舞台が暗転した。

また大きな破裂音の後照明が点灯する。そこには窒息死した出演者たちが横たわっていた。「くるしい、子供たちはどこ、、」息苦しさを表現しながら子供たちの姿を探す。一人一人の頬を撫でながら、私自身も最後の力を振り絞り手を上に伸ばした。

「私たちが何か悪いことでもしたのか」そう思いながら私自身の死を合図に単調音と共に舞台は暗転した。しばらく客席からは何も聞こえなかった。舞台上にいる私にも、客席からのすすり泣く声が届いた。

創作バレエは、当時から沖縄で論争されていた米軍普天間基地の辺野古移設問題を移設反対の立場から、辺野古海域で暮らすジュゴンの目線で描いていた。

この公演でジュゴンの母親役を演じたことで、私は地元の問題を深く考えることになった。この公演は沖縄でバレエを13年続けてきた集大成だった。技術や表現力の向上ばかりに目を向け続けていた私が、初めてバレエにそれ以外の、もっと大切な沖縄県民としてのアイデンティティを教えられた。

死んだジュゴンの親子は、声が届かない沖縄県民を表していたのだと練習積んでいくにつれ気付かされた。色々な意見があって然りということも学んだ。しかし私はやっぱり、辺野古の新基地建設には反対だ。

【第1稿】

「やっとこの時がやってきた」そう思った。本番前に流れる恒例のエンヤを舞台袖で聴きながら自分自身を奮い立たせた。

私は5歳から13年間バレエを習っていた。特に中学生からは毎日4時間稽古をするという生活を送っていた。当時、私にはバレエが全てでありなんの努力もいとわなかった。そんな積み重ねが実り、高校2年生の頃年に一度の発表会で主役の座を勝ち取ることができた。主役は自分のことはもちろん出演者達への指導や演出にも関わる。今までとは全く違う立場で教室に通う7ヶ月はあっという間に過ぎていった。

舞台袖から下手側の照明をぼんやりと眺めながら今までのバレエ人生、そしてこの7ヶ月間を思い出していた。開演を知らせるアナウンスも終わり、幕開けを踊る後輩達が板に付いた瞬間、人生最大の緊張が私を襲った。スポットライトを沢山浴びてキラキラ輝く姿に勇気を貰いながら平常心へ近づけようと必死だった。

「バン!」先生に背中を強く叩いてもらい、暗転の中板付のため舞台前方中央に向かった。「どんな景色なのだろうか」、「私をどう魅せようか」、先程までの緊張はアドレナリンが綺麗に消し去っていた。暗闇の中客席の景色はどんなものかと想像する。今までの明るい照明と壮大な音楽から一変、暗闇と静かすぎる空間がさいど私を奮い立たせた。舞台上には私ただ1人。息を大きく吸った。客席の向こう側1台の照明がじわじわと私1人だけを照らし始める。暗かった空間に私だけがぼーっと現れるようにそのスポットライトが輝き始めた。客席の1列目さえ舞台上からは見えない、そんな淡い光だった。こちら側からは見えない客席。しかし客席1,600人全員の目が私に向いているという感覚は間違いなくあった。私は30回以上舞台に立ち、たくさんの煌々とした照明を浴びてきた。しかしこの舞台で感じた感覚だけは4年経った今でも忘れられない。

【第1稿への講評】

あなたが高校2年生の時のバレエの発表会で主役を踊ったということは書いていますが、その体験の場面は、読者に見えるようには文章化されていません。この文章には体験の場面が描かれていません。

まずは踊る場面だけでいいです。演目は何ですか、どんなバレエですか。何人で踊り、あなたの役はどのような役で、どのような踊りをしたのですか。あなたが躍る場面が、読者に伝わるように再現しなさい。あなた自身の体験が見えるように書きましょう、そのような場面の再現がなくて、あなたが舞台から見た光景とその時の思いだけを書いても、文章を読む読者には伝わりません。

【指導の要点】

創作バレエの主役として踊ったという体験を扱っている。バレエであるから台詞があるわけではないため、演出と踊りを文章で再現することで、読者に舞台を伝えなければならず、難しい課題である。早い段階の文章では、筆者が舞台上で感じた思いや気持ちなどの心象風景を書き連ねたもので、読者には伝わらない文章だった。読者にイメージできるように場面として書くという修正を重ねることで、最終稿では舞台の様子が見えてくるような印象的な文章となった。

この文章の、もう一つのテーマは、辺野古の基地問題である。しかし、第1稿ではそのことは何も書かれていなかった。どのような踊りだったのかを明確に書くように注文を付けて、<『沖縄の辺野古基地移設問題』をテーマに主役である私が演じるジュゴンの母親視点で物語は進んでいく。クラシックバレエを基礎としたコンテンポラリーバレエ、いわゆる創作バレエだ。>と出てきた。ただし、そのように説明しただけで、具体的な体験としてきじゅつされていなかった。それにタしいて、<あなたが演じるジュゴンの母親というのは、どのような衣装で、どのようなバレエをするのですか。どのようなストーリーで、山場はどのようなものですか。まずバレエを再現し、そのバレエの体験によって、あなたが得たものは何かを考えることです。それがテーマになるでしょう。>と注文を付けた。

人間の体験には、この体験のようにダンスと政治というように異なる要素が混在していたり、時には背景に矛盾する感情が動いていたりする。説明すると必要以上に難しくなったり、それを避けて単純化したりすることもあるが、文章として筆者の体験の場面を再現することで、読者が、複雑な要素や、矛盾した思いを読み取ることができるように書くことができる。

この文章では、バレエが辺野古基地移設問題をテーマとしていることも、舞台のシーンとして再現したことで具体的なイメージとして伝わってきた。筆者の思いを書いても伝わらないが、体験の場面として再現すれば、筆者の思いを含めて、その体験が文章を通じて伝わるということを示す例である。

発信力を高める文章講座
1.体験の「場面」を再現するということ(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.バリ島の孤児院でユニタとの出会い
 2-2.タイの子供達との「アルプス一万尺」
 2-3.雪山で出会った人々の温かさに気づかされたこと
 2-4.サービスという仕事
 2-5.15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ
 2-6.ふでばこが教えてくれたこと
 2-7.兄妹の心の壁を壊した結婚式
 2-8.ニューヨークでの苦い思い出
 2-9.学童キャンプで子どもたちから学んだこと
 2-10.よさこいで破った殻
 2-11.主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚
 2-12.挑戦し続けることで人間の可能性は変えられる
 2-13.私と人を繋ぐ就職活動
3.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)
 
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