スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

2.学生の作品


現代国際学部 国際教養学科 長田明日香

よさこいで破った殻 【第11稿】

大学の「よさこいサークル」に所属して3ヶ月たった7月のある練習日。いつも通りよさこいの練習が大学の体育館で行われる。私の目の前には2面の大きな鏡がありメンバー総勢60人が黙々と鏡とにらめっこをして踊っている。私はわずかに鏡に写る自分の姿を見つめ小さく溜息をついた。しばらくして突然代表の高い声が体育館に響き渡った。「それでは今から最後の一曲通しをしたいと思います」私は唇をきゅっと結んだ。
よさこいには多種多様な振りや音楽が存在する。わたしが所属する凰(おう)というチームでは、主に和楽器を使った速いテンポの曲に合わせて踊る。勢いよく両手を大きく回したり、力強く両足を低く曲げて開いて踊る振りだ。そして踊るメンバーの表情はくしゃくしゃの笑顔だ。これがメンバー誰もが目指すよさこい凰の踊りだ。 
私は人に自分の踊りを見られるのが嫌だった。凰の踊りを周りの先輩や同期でさえもできていたがわたしはできていなかった。何人かの先輩に「もっと笑顔で踊ったらいいよ」と何度か言われたこともあった。私はいつも口を閉じてただ一点を見つめて踊っていたのだ。昨夜に何度も見返した練習風景の動画に映っていたのはまるで地蔵のような生命力のないうつろな目、固く結んだ口の自分。それを自室のベットに寝っ転がって見ながら唇をかんで見ていた。なので、その日の最後の一曲は笑顔で声を出して踊ると決めていた。
「シャン」という鈴の音と共に曲が始まった。周りの仲間が次々とお互いに顔を見合わせながらこぶしを突き上げ「行くぞー」と叫ぶ。それに囲まれていた私は自然と両手に力が入り「行くぞ」と腹から声を出し右拳を前に突き出した。その後も「はっ」「そーれっ」などの自分が今まで演舞中に叫べなかった言葉が自然に口から勢いよく飛び出していった。踊っている合間に一瞬鏡に映った自分の顔は地蔵なんかではなくクシャクシャの笑顔だった。
「はあはあ」最後のポーズを力強く決め、みんなの激しい息遣いが聞こえた。私も肩を上下に動かして大きく呼吸をしていた。立ち上がって同期と「体力落ちてきちゃったな」と笑顔で喋る私の顔はとても晴れやかだった。
8月初旬に市民会館のホールで演舞を披露する機会があった。
その日の朝は突き動かされるように早朝に目が覚めた。「今日は本番だ。」と自分に言い聞かせた。会場に着いて控え室の大きくて重い扉を前にぐっと押す。鮮やかな水色の和服の衣装の袖に手を通す。目線を落とし帯をぎゅっとしめる。出番の直前に舞台袖から真っ暗なステージを見つめながら、今まで練習してきたこと自分の殻を破って踊ったことを思い出しながら「ありのままの私で踊ろう」そう心でつぶやいた。「皆さん!こんにちは!」代表のあいさつと同時に光が照らされたまっさらなステージに私は踏み出した。私は間違いなくよさこいを踊っていた。
私は練習と本番を通じて、もがきながら殻を破った。感情をむき出しにして踊りたい気持ちを覆う羞恥心という厚い殻。それを破ったのは「絶対にあんなふうに踊りたい」という熱い願望だった。それによって突如勇気が生まれ、勢いよく殻を砕いたのだ。それまでとは違う新しい自分が殻から生まれたと同時に自分の新たな一面が加わって自信になる。この経験を通して、自身を変えるのはそれだけの決意と熱い想いであることと、苦しんだその先に新たな自分を手に入れられることを改めて実感した。

【第1稿】

この暗闇と静けさは何だ。おまけにホールに設置してあったエアコンのおかげで8月であることを忘れさせるような肌寒さである。異様な状況である。そこはまるで幽霊の出る館のようであった。しかし私は館ではなく市民会館のホールにいた。照明に照らされていないステージの袖で、仲間に囲まれながら私は背筋をピンと伸ばして出番を静かに待っていたのだ。私は大学のよさこいサークル凰のメンバーとして初めて演舞をするのだ。私の周りには鮮やかな水色の和服を身にまとい、まだ照明が当てられていないステージをまっすぐ見つめる仲間たちがいた。
そんな情景を静かに目に焼き付けながら、よさこいを始めてからの4か月間を思い出した。自分をアピールしたり表現したりすることが苦手だった私は、初め、常に羞恥心を抱きながら踊っていた。自分が楽しく笑顔で踊るということが恥ずかしかったと同時にそんな自分が嫌だった。しかし自分を変えたいと思い、少しでも自信がつくように放課後に公園で練習をしたり、踊っている途中に勇気をもって「はっ!」という声を出したりした。少しずつコンプレックスを乗り越えていき、確実に踊ることの楽しさを見出していった。
そしてついに人生で初めてお客様に自分の踊りを披露する。見ている人に踊りを通して自分を表現する。私はステージの袖で一人、緊張と自信の狭間にゆらゆらといて、少しでも気を抜いたら消えてしまいそうだった。心の中で「いける、できる」と自分に言い聞かせた。
「皆さん!こんにちは!」私たちのチームの代表のあいさつが始まると、暗いステージに向かって私たちは足を大きく踏み出した。自分の位置につき両足をそろえた後、首をくっと伸ばし顔を前に向けた。目の前はまだ暗闇で前にいた仲間の姿がうっすら見えた。その瞬間に強い照明が私たちを照らした。そのとき私の中で新しい自分が生まれた。

【第1稿への講評】

<大学のよさこいサークル凰のメンバーとして初めて演舞>した体験ですが、<いつ><どこで>の話ですか。どこの市民会館ですか。何人で踊ったのですか、どのように踊ったのですか。どのような機会ですか? 発表会ですか?それともコンペのようなものですか。踊った場面や練習した場面の情景は、あなたの記憶の中にはあるのでしょうが、文章には書かれていませんし、読者には分かりません。
<自分をアピールしたり表現したりすることが苦手だった私は、初め、常に羞恥心を抱きながら踊っていた。>という文章で、<羞恥心を抱きながら踊る>というのがどういうことなのか、<自分をアピールしたり表現したりすることが苦手>ということがどういうことなのか、文章では分かりません。<私はステージの袖で一人、緊張と自信の狭間にゆらゆらといて、少しでも気を抜いたら消えてしまいそうだった。>というような表現も、あなたが、そのように感じていることは分かりますが、どれがどういう状況なのかは分かりません。このような表現は、ひとりよがりなだけで、伝わりません。そのように、自分の思いや心理状態を文章にしても、それはあなたがそのように感じているだけで、その文章を読んだ読者が、その文章によって何か思い浮かべることができるわけではありません。文章に書かれていることを、読者が思い浮かべることができるように書きましょう。
例えば、<羞恥心を抱きながら踊る>というのは、思い切って踊ることができない、ということだと思いますが、思い切って踊るというのは、踊りで、大きく手を開いたり、足を勢いよく踏み出したりする時に、振りが小さくなってしまったり、切れがわるくなってしまったりするということではないでしょうか。そのことは、他のメンバーと一緒に鏡の前で踊って、他の上手な人の踊りと自分の踊りを比べて、踊りが小さいことで自覚したり、コーチやリーダーや先輩から、踊りの問題を指摘されることで、あなたが<羞恥心を抱きながら踊っている>と感じるのではないでしょうか。あなたが<羞恥心を抱きながら踊っている>と感じたり、思ったりする経験があるはずなのに、その経験自体は書かないで、<羞恥心を抱きながら踊っている>というあなたの思いや感じだけを書くので、読者には、どういうことを言っているか分からないのです。
あなたの思いを書くのではなく、その思いが生じる体験そのものを書かないと、読者には、あなたの思いは伝わりません。考えてみましょう。

【指導の要点】

 よさこい踊りのダンスグループに参加している筆者が、羞恥心のために思い切って踊れない自分から脱却しようとして踏み出した体験を書いている。しかし、第1稿は体験そのものを書かないで、体験に対する自身の思いばかりを書くという感想文的な文章である。
第1稿の講評で指摘しているように、筆者は<自分をアピールしたり表現したりすることが苦手だった私は、初め、常に羞恥心を抱きながら踊っていた。>と書き、自分の心の葛藤など自身の心象風景について言葉を重ねた。そのような感情表現で文章を書くこと自体が、自分を隠そうとしているように思えた。私は第2稿について、<あなたが練習で羞恥心を克服した体験を再現すべきです。あなたは自分の生の体験を文章にしていません。羞恥心を抱いたまま中途半端な文章を書いているということでしょう。>と講評した。筆者は第3稿で、<私が初めて自分をさらけ出して踊った時のことを書きました。>と書き、それから最終稿にいたる修正が行われた。
修正では、筆者が<自分の殻を破りたい>と考え、思い切って踊ろうと考えるダンスの練習の場面や他のメンバーとの言葉のやりとりが入った。修正を重ねたことで、筆者のもがく姿がイメージできる場面としてえがかれ、自身の心理描写ではなく、よさこいを踊る中で自分の殻を破った経験が、いくつかの筆者の体験の場面として見えるようになった。難しい題材だが、本人にとって「心に残った体験」を丁寧にたどって、再現しようとしていることが分かる文章である。

発信力を高める文章講座
1.体験の「場面」を再現するということ(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.バリ島の孤児院でユニタとの出会い
 2-2.タイの子供達との「アルプス一万尺」
 2-3.雪山で出会った人々の温かさに気づかされたこと
 2-4.サービスという仕事
 2-5.15分が教えてくれた、”当たり前” の難しさ
 2-6.ふでばこが教えてくれたこと
 2-7.兄妹の心の壁を壊した結婚式
 2-8.ニューヨークでの苦い思い出
 2-9.学童キャンプで子どもたちから学んだこと
 2-10.よさこいで破った殻
 2-11.主役を演じて芽生えた沖縄県民としての自覚
 2-12.挑戦し続けることで人間の可能性は変えられる
 2-13.私と人を繋ぐ就職活動
3.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)
 
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