スーパーアドバンストPBLプログラム『PBL Literacy』
常に挑戦する「オンサイト」型の国際教養教育
ジャーナリストとのコラボレーションによる「リテラシー」能力の開発

発信力を高める文章講座

現代国際学部国際教養学科 学科長 佐藤都喜子

私が「発信力を高める文章講座」の講師である川上泰徳氏に初めてお会いしたのは、私がまだ独立行政法人国際協力機構(JICA)に勤務していた頃であった。川上氏は、当時中東専門の朝日新聞記者であり、既に中東報道でボーン・上田記念国際記者賞を受賞し、中東アフリカ総局長までされていた。そのようなベテラン記者が私のような一介の途上国専門家に取材を申し込んできた理由は何か。それは当時中東のヨルダンで10年近く女性支援のプロジェクトに従事していた私にその体験を聞こうというものであった。記者としての川上氏は私の体験を深く掘り下げるような質問をそれは粘り強くされた。ディテールにこだわっているというのがその時の私の印象だった。このディテールこそが、実はこの文章講座で川上氏が再三強調された「場面を描く」ということだと分かったのは、私が実際に川上氏から文章指導を受けてからである。

 

川上氏は、その後二度目の朝日新聞中東アフリカ総局長に任命され、エジプトに赴任した。赴任後Asahi中東マガジン(有料Webマガジン*)を開始された。そして、私に「自分の体験は自分だけのものと考えないように。その体験を他者と共有するのはあなたの義務だ」と言われ、中東マガジンに自分自身のヨルダン体験を書くことを勧められた。その後も何回か、「体験を忘れないうちに書いておくように」とお誘いしてくださった。これほどまでに言っていただけるのならと軽い気持ちで引き受けたのだが、まさかそのことがその後大変な思いにつながるとはその時点では夢にも思わなかった。
私は、Asahi中東マガジンに「ヨルダン報告」と題して、9回にわたるレポートを投稿したのだが、最初の数回のレポートは編集人である川上氏からきびし~い指導を受けた。大学院時代に厳しい論文の作成指導を受けていたので、レポート作成にも自信があった。そのため、最初は「え、なんでそんなに怒られなくちゃならないの」と正直驚いた。

 

川上氏は決して「こうしなさい」とは言わない。最初の原稿ではいきなり「状況が見えない」「意味なし」というコメントをいただいた。そこからわたくしの苦闘が始まった。「状況を描く」「だれにでも筆者の置かれている状況が思い描けるように」「読者があたかもその場にいあわせたと思えるように」といろんな言葉でダメ出しを食らった。大学院を卒業してから久しぶりにこわ~い先生に一対一で指導されているような気分だった。しかし、レポートが4、5回目あたりになった頃からあまり文句を言われなくなった。その代わりに、「自分のスタイルが出てきましたね」とか「問題ありません」とか言われるようになった。自分の文章が他の人に理解されたとわかったあたりから、他の人に自分自身の体験を知ってもらいたい、他の人と自身の世界を共有したいと思うようになった。こうなると書くことが楽しくなる。

 

「発信力を高める文章講座」は、本大学に移ってから私が開講したいと念願してきた講座の一つである。自身の経験から、自分の体験を発信することはすなわち外の世界とつながることであると確信した私は、本大学の在校生が自分自身の体験を自分の中だけに閉じ込めずに、他の人と共有することによってより広い世界観を持つようになって欲しいと願った。幸いにも本大学の協力を得てここに講座が開講された。


実は、「発信力を高める文章講座」は今回で2回目である。第1回目は本大学のワールド・リベラル・アーツセンターの協力を得て実現した。今回は、国際教養学科の支援を得ることができた。これからわかるように、これまでの2回は単位取得に関係なく、文章講座に関心ある学生が自主的に参加している。

 

今回の講座には当初30名の履修生がいたが、その後途中で5名が抜け、結局最終稿を提出するに至った学生は17名であった。本冊子に記載されているのはその17名全員の体験である。他人と自身の体験を共有するということはある意味では自分自身を他人にさらけ出すことである。冊子に記載されている原稿を読むと、自分自身をさらけ出すからこそ一人一人の個性が躍動しているのがわかる。それが読む者を引き付けるのだと思うが、「自分の考えていることが人に知られるのは恥ずかしい」という思いが湧き出て、実名入りの掲載という条件に躊躇し、結局は最終稿を提出しなかった学生もいたに相違ない。しかし、最後まで残った17名は、自分の体験を他の人に知ってもらいたい、自分の思いを外の世界に発信したいという気持ちが勝った学生だと思う。世界とつながった彼女らの今後の成長を楽しみにしている。

 

*ASAHI中東マガジンは川上氏の朝日新聞社退社に伴い、サイトは2015年1月末に閉鎖。主な原稿は朝日新聞オンラインデータベース「聞蔵(きくぞう)」に収録されている。

 発信力を高める文章講座


1.情報発信者を養成する文章講座の取り組み(川上泰徳)
2.学生の作品
 2-1.言葉のないコミュニケーションから学んだこと
 2-2.諦めないこと
 2-3.「伝える」コミュニケーション
 2-4.オーストラリアでの失敗から得た教訓
 2-5.弟の職業体験から考える賃金格差
 2-6.私が感じた情報格差
 2-7.楽しい世界の造り方
 2-8.「二度の受験を乗り越えて」
 2-9.傷ついて知ったこと
 2-10.旅から学んだこと
 2-11.ホストマザーとのコミュニケーション
 2-12.セックスワーカーの女性たち
 2-13.取材を通して学んだこと
 2-14.日本とインドネシアの架け橋
 2-15.「コミュニケーションが与えるもの」
 2-16.百崎先生との大学受験
 2-17.国境を越えるコスプレ文化との出会い
3.参加者の声
4.取り組みの狙い(佐藤都喜子学科長)